損傷毛髪のキューティクル機能を回復、持続させる技術を開発

News Release


2022 年 11 月 16 日



損傷毛髪のキューティクル機能を回復、持続させる技術を開発
~脂質成分を毛髪表面タンパク質に架橋させ、潤滑性を向上~

美容室向けヘア化粧品メーカーの株式会社ミルボン(本社:東京都中央区 代表取締役社長・佐藤龍二)は、地方
独立行政法人 大阪産業技術研究所と協働し、損傷した毛髪表面のタンパク質に潤滑性の高い脂質成分を結合(架
橋)させることで、キューティクルの潤滑機能を回復させる技術を開発しました。この潤滑機能は、持続性が高いことも確
認できました。本研究成果は以下の学会にて発表しました。


【外部発表】
発表学会:2022 年 繊維学会秋季研究発表会
発表タイトル: キノン架橋を利用したアミノ基含有成分の結合による毛髪表面改質
発表日:2022 年 11 月 9 日


【研究背景】
毛髪の約 85%を占めるタンパク質がヘアカラーなどによって損傷すると毛髪の強度が低下し、切れ毛や枝毛を引き起こ
します。このような課題に対して、ミルボンではこれまでにフェノール化合物*1 を介してタンパク質同士を架橋することで、損傷
した毛髪内部のタンパク質を修復する技術を開発しています(図 1a)。
20201120_News_release_protein_crosslinking.pdf (milbon.com)
髪を美しく健やかな状態に保つためには毛髪内部だけでなく、指通りに影響を与える毛髪表面の状態も重要です。毛
髪表面には脂質が存在していますが、ヘアカラーなどの施術によりこの脂質が失われると、表面の潤滑機能が損なわれ、指
通りが悪化します。対処のためトリートメントなどで毛髪表面をコートし指通りを改善する方法が一般的ですが、コート成分
は日々の洗髪で洗い流され、持続しにくいことが課題でした。
そこで今回は、洗髪に対して耐久性が高い毛髪表面ケア製品の開発を目指し、フェノール化合物による架橋技術を応
用し、脂質成分を毛髪のタンパク質に架橋させ、毛髪の指通りを改善する技術の開発に取り組みました(図 1b)。




図 1 毛髪における、タンパク質架橋技術のイメージ図
(a) タンパク質同士を架橋(これまでに報告済み)
(b) タンパク質と、キューティクルの潤滑機能を回復させる脂質成分の架橋(本研究の取り組み)

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【研究成果】
脂質成分フィトスフィンゴシン*2 をフェノール化合物と共に処理することで、毛髪の潤滑性が向上し持続することを確認
健康な毛髪表面には、キューティクルの潤滑機能を担う 18-MEA*3 という脂質成分が存在します。この 18-MEA に類
似し、かつフェノール化合物を介してタンパク質と架橋形成が可能な化学構造をもつ成分を探索しました。 その結果、脂
質成分の一種であるフィトスフィンゴシンをフェノール化合物と共に毛髪表面に処理すると、ブリーチ毛の潤滑性が高まること
がわかりました(図 2) 。さらに、 この潤滑性は、洗髪処理後も持続していることが確認できました。




図 2 毛髪表面の潤滑性と、洗髪処理に対する耐久性
固体表面の潤滑性を示す吸着エネルギーを原子間力顕微鏡(AFM)*4 にて測定した結果。
フィトスフィンゴシンのみを処理した毛髪では、処理直後は潤滑性が高まるが、洗髪処理後は潤滑性が下がる。
フィトスフィンゴシンをフェノール化合物とともに処理すると潤滑性が高まり、洗髪後も持続する。




【今後の展望】
ヘアカラーやブリーチ、ヘアアイロンなどで損傷した毛髪のキューティクルの潤滑機能を回復させ、心地よい指通りが続く高
効果ヘアケア製品の開発を目指します。




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《補足》 フェノール化合物との併用で、フィトスフィンゴシンの効果の持続性が高まる理由
タンパク質に他の物質が結合すると分子質量が大きくなります。脂質成分フィトスフィンゴシンをフェノール化合物の存在
下でタンパク質と混合すると、タンパク質の分子質量が大きくなりました(図 3a)。また X 線光電子分光分析法(XPS)*6 に
て、タンパク質、フィトスフィンゴシン、フェノール化合物のモデル物質を用い、3 成分の結合の状態を確認しました。それらの
結果より、タンパク質とフィトスフィンゴシンがフェノール化合物を介し、架橋していると考えられます(図 3b)。


(a) SDS-PAGE*5 の結果 (b) タンパク質とフィトスフィンゴシンの架橋イメージ図




M: タンパク質の分子質量マーカー
1: タンパク質、フィトスフィンゴシンの混合物
2: タンパク質、フィトスフィンゴシン、フェノール化合物の混合物



図 3 フェノール化合物による、タンパク質とフィトスフィンゴシンの架橋
(a) SDS-PAGE の結果:55 kDa 付近の色が、1 に比べて 2 は上(高分子質量側)にシフトしている。
(b) 架橋イメージ図:フィトスフィンゴシンは、タンパク質のアミノ基やチオール基にフェノール化合物を介し架橋している。




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《用語解説》
*1 フェノール化合物
フェノール環と呼ばれる構造を有する化合物で、ほとんどの植物に含まれており、主にポリフェノールと呼ばれる。


*2 フィトスフィンゴシン
皮膚に存在する脂質の一種であり、バリア機能を担う成分。スキンケア用の化粧品にも使用されている。


*3 18-MEA
18-メチルエイコサン酸。毛髪表面に存在している脂質成分のひとつであり、毛髪の摩擦を少なくする役割を持っている。


*4 原子間力顕微鏡 (AFM : Atomic Force Microscope)
顕微鏡の一種。ごく微細な表面状態の観察や物性測定が可能。


*5 SDS-PAGE
タンパク質を分子質量ごとに分離する分析法。


*6 X 線光電子分光分析法(XPS: X-ray Photoelectron Spectrometer)
X 線を用い、分子中に含まれる各元素の比率や、元素ごとの結合エネルギーを測定する手法。




■リリースに関するお問い合わせ先
広報室 東京都中央区京橋 2-2-1 京橋エドグラン
TEL 03-3517-3915 FAX 03-3273-3211
株式会社ミルボン/本店:大阪市都島区、社長:佐藤龍二、証券コード:4919(東証プライム)


(地独)大阪産業技術研究所 森之宮センター 企画部


大阪府大阪市城東区森之宮 1-6-50 TEL 06-6963-8331 FAX 06-6963-8015


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