HiSORの放射光により、毛髪構成タンパク質の高精度な観測に成功

News Release
2019 年 6 ⽉ 14 ⽇



HiSOR の放射光により、⽑髪構成タンパク質の⾼精度な観測に成功

〜アルカリダメージによる⽑髪構成タンパク質の変性過程とダメージ抑制成分を発⾒〜


株式会社ミルボン(代表取締役社⻑・佐藤⿓⼆)は、広島⼤学放射光科学研究センター(HiSOR)※1 の松尾光⼀
准教授らと共同で、⽤いた研究を通じて、⽑髪構成タンパク質のアルカリによる変性過程を、HiSOR の放射光を⽤いて
詳細に捉えることに成功しました。
ヘアカラー、ブリーチ等の美容施術によってヘアダメージが⽣じる際に、⽑髪内タンパク質の好ましくない構造変化(タン
パク質変性)が起こることが知られています。これまで我々は、近紫外線※2 を利⽤した技術によって、ダメージによる⽑髪
内タンパク質の構造変化を捉えてきました(2017 年 6 ⽉ 29 ⽇ 「ダメージによるヒト⽑髪内タンパク質の構造変化を解
析する新技術を開発」)。
今回我々は放射光の真空紫外線※3 と呼ばれる光領域を利⽤し、⽑髪構成タンパク質の構造変化をより詳細に調
べることで、効果成分のスクリーニングをより⾼精度にできることが可能になり、ダメージを抑制する成分を発⾒いたしました。
これらの知⾒は、全国発売予定のヘアケア製品に応⽤しています。本研究成果は以下の外部発表にて報告予定で
す。


【外部発表】
発表会 ︓第 19 回 ⽇本蛋⽩質科学学会年会
発表タイトル ︓放射光真空紫外円⼆⾊性を⽤いた⽑髪内蛋⽩質の構造変化の詳細な解析
⼝頭発表者 ︓安富諒 1、古⽥桃⼦ 1、⼩林翔 1、鈴⽥和之 1、泉雄⼤ 2、松尾光⼀ 2、伊藤廉 1
1 株式会社ミルボン
2 広島⼤学放射光科学研究センター (HiSOR)
発表⽇ ︓2019 年 6 ⽉ 25 ⽇


【研究の背景】
ヘアデザインを楽しむうえで必要な美容施術である、ヘアカラーやブリーチ、パーマ等の製剤中にはアルカリが含まれてい
ます。このアルカリはタンパク質の構造を変化(タンパク質変性)させることが知られており、80% 以上がタンパク質から構
成される⽑髪にとって、アルカリによる影響は⾮常に⼤きいと考えられます。タンパク質は・ヘリックス構造※4 や・シート構造
※5
などと呼ばれる様々な⼆次構造を有しており、これまで我々は、それらの構造を近紫外領域の波⻑範囲での CD ス
ペクトルを⽤いて、測定を⾏ってきました。しかしこれまで⽤いていた⽅法では、近紫外領域までに限られていたスペクトル
のため、⼆次構造の存在量を精度よく算出する点において限界がありました。
今回我々は、真空紫外線領域の放射光を利⽤できる HiSOR において、これらの課題をクリアするために研究を⾏い
ました。



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【研究の成果】
これまでも 200〜190nm の波⻑範囲での測定は⾏えていましたが、HiSOR の放射光を⽤いることで、従来と⽐べ
て短波⻑側に測定範囲を拡⼤してスペクトルを取得することができるため、⼆次構造由来のピークの形状を正確に、そし
て複数箇所で捉えることが可能になりました。またこの結果、より正確にピークの強度とその形状を利⽤した解析を⾏うこ
とができ、・ヘリックス構造だけでなく・シート構造の存在量を精度よく算出できるようになりました(図 1)。
この測定解析⼿法を利⽤し、タンパク質濃度や曝露するアルカリ成分の量、放射光の照射条件等などの検討を重ね
た結果、⽑髪構成タンパク質中の・ヘリックス構造は減少する⼀⽅で、・シート構造は時間経過とともに増加している様
⼦を明らかにしました(図 2)。
この結果を元に、このような現象を抑制する成分を探索した結果、pH の緩衝性に関係なくポリエチレングリコール(平
均分⼦量 1000)、グリシン、タウリンの 3 つの成分が特に有効であることを⾒出しました。前述の成分存在下による、⽑
髪構成タンパク質の⼆次構造の保存率を算出したところ、アルカリによる・ヘリックス構造の減少と、・シート構造の増加の
両⽅が抑制されていることが明らかになりました。(図 3)。


ミルボンは今回の新たな知⾒・技術を⽤いて、より⽑髪の本質的なダメージ現象の解明と、その予防やケア技術の開
発に取り組んでいきます。




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《参考資料》




図 1 ⽑髪構成タンパク質の CD スペクトル
(上段︓従来の測定⽅法 下段︓今回確⽴した技術での測定⽅法)
上段グラフの 190~200 nm 範囲のスペクトル情報(緑⾊点線で囲まれた部分範囲)を下段グラフではより正確に取
得できるようになりました。
222nm 付近のショルダー(⻘⾊の下向き⽮印)と、190nm 付近のピーク(⻘⾊上向き⽮印)は、どちらも・ヘリックス
構造に由来しています。
217 nm 付近と(⾚⾊下向き⽮印)と、197nm 付近(⾚⾊上向き⽮印)は、・シート構造の存在がスペクトルの形
状に影響を与えています。




図 2 アルカリ成分に曝したことによる⽑髪構成タンパク質の⼆次構造存在量の時間変化
・ヘリックス構造は時間経過とともに減少し、代わりに・シート構造が増加している。



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図 3 ⽑髪構成タンパク質のアルカリ変性による構造変化と、成分による変性抑制
⽑髪構成タンパク質の⼆次構造はアルカリ変性によって崩れ、・ヘリックスが減少し・シートが増加する(A→B)が、あら
かじめポリエチレングリコール、グリシン、タウリンを適⽤しておくことで、効果的に抑制される(A→C)。




≪⽤語解説≫
※1 広島⼤学放射光科学研究センター (HiSOR︓ハイソール http://www.hsrc.hiroshima-u.ac.jp/)
広島⼤学(広島県東広島市)にある放射光実験施設です。放射光とは、電⼦を光とほぼ等しい速度まで加速し、電
磁⽯によって進⾏⽅向を曲げる時に発⽣する強⼒な電磁波のこと。HiSOR では、真空紫外線・軟 X 線領域の放射光
を⽤いた実験を得意としており、⽣体物質の構造解析⼿法などの研究を⾏っています。
※2 近紫外線
可視領域の外側の、より波⻑の短い紫外領域の電磁波であり、その中でも可視領域に⽐較的近い波⻑をもつ光で
す。メラニン⽣成や⽪膚のタンパク質変性に関与し、⽇焼けの原因となることが知られています。
※3 真空紫外線
紫外領域の中でも波⻑が短く、空気中の酸素や窒素に吸収されやすく、真空中でなければ⻑い距離を通過できな
い光です。




-4-
※4 ・ヘリックス構造
・シート構造とともに、⼆次構造と呼ばれるタンパク質の⽴体構造の代表的な様式のひとつ。タンパク質はペプチド結合
と呼ばれる形式によりアミノ酸が鎖のように連なってできています。このアミノ酸の鎖がらせん状に巻いている構造のこと。
※5 ・シート構造
・ヘリックス構造とともに、⼆次構造と呼ばれるタンパク質の⽴体構造の代表的な様式のひとつ。まっすぐに伸びたアミノ
酸の鎖が平⾏または逆平⾏の関係に並び、平⾯を形成している構造のこと。
※6 CD スペクトル測定
さまざまな波⻑の光を⽤いて、タンパク質などの⽣体分⼦の構造に関する情報を得る⼿法。




■リリースに関するお問い合わせ先
広報室 東京都中央区京橋 2-2-1 京橋エドグラン
TEL 03-3517-3915 FAX 03-3273-3211
株式会社ミルボン/本社︓東京都中央区、社⻑︓佐藤⿓⼆、証券コード︓4919(東証1部)




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