信州大学とブライトパス・バイオが固形がんCAR-T細胞療法の共同研究開発契約を締結

2019 年8月 19 日
各 位
国立大学法人信州大学
ブライトパス・バイオ株式会社


信州大学とブライトパス・バイオが
固形がん CAR-T 細胞療法の共同研究開発契約を締結

国立大学法人信州大学(本部:長野県松本市旭 3-1-1,学長:濱田州博、以下「信州大学」)とブ
ライトパス・バイオ株式会社(本社事業所:東京都千代田区麹町2-2-4、代表取締役:永井健一、
以下「ブライトパス・バイオ」)は、固形がんを対象とした CAR-T 細胞療法の臨床開発を目的として、
共同研究開発契約を締結しました。


HER2 とよばれるがん抗原は多くの固形がんで過剰発現しており、すでに同標的に対する抗体医薬
などが実用化されておりますが、引き続きがん治療における有力な標的抗原として注目されています。
信州大学ではブライトパス・バイオと協業し、同大学小児医学教室の中沢洋三教授及び京都府立医科
大学小児科の柳生茂希助教らが製法を確立した HER2 抗原を認識する HER2-CAR-T 細胞を治験薬とし
て、骨肉腫患者を対象とする医師主導治験の実施準備に入ります。


がん免疫療法の一つである CAR-T 細胞療法は、免疫細胞である T 細胞にがん抗原を認識する受容体
(Chimeric Antigen Receptor)を、ウイルスベクターなどをもちいて遺伝子導入することでがんの排
除能を高めた医薬品で、一部の血液がんを対象としてすでに日米欧で承認されており、近年その大き
な効果が臨床的に証明された細胞療法です。現在全世界で更なる臨床効果を狙った次世代の CAR-T 細
胞療法の開発が行われており、血液がんの分野ではその効果が確認できる疾患対象範囲が広がりつつ
あるものの、固形がんの分野においては未だ道半ばの状況です。


固形がんを対象とした CAR-T 細胞療法の難しさは、腫瘍微小環境と呼ばれる免疫細胞の機能が抑制
される固形がん特有の環境下で、CAR-T 細胞が持続的な抗腫瘍効果を発揮しなければならない点にあ
ることが知られています。中沢洋三教授らの非ウイルス遺伝子導入法と、この度新たに共同で創製し
た CAR-T 細胞培養法(特許共同出願中)により作製した CAR-T 細胞は、従来のウイルスを用いる方
法で作成した CAR-T 細胞と比較して、抗腫瘍効果が持続することが示唆されており、これにより免疫
抑制的な腫瘍微小環境でも持続的な活性を有し、固形腫瘍に対して有効であることが期待されます。





信州大学が準備を進める医師主導治験の対象となる骨肉腫は、小児や若年者に発生する代表的な小
児がんのひとつで、近年の治療の進歩は著しいものの、再発例や遠隔転移例などの重篤患者の治癒の
ためには新たな治療薬の開発が待ち望まれています。米国では、このような難治性骨肉腫に対し、従来
のウイルスベクターを用いた遺伝子改変法で作製された HER2-CAR-T 細胞による臨床試験が行われて
おり、一部完全寛解を含む有望な結果が報告されています。ブライトパス・バイオは、HER2 抗原とい
う CAR-T 細胞療法においてすでに臨床コンセプトが確認された抗原に対して、より高い効果が期待さ
れるプラットフォーム技術を組み合わせた今回の CAR-T 細胞療法が、有力な治療の選択肢として広く
臨床的に活用されることを目指し本開発に参画します。


当該医師主導治験は、2020 年度内の開始が想定されています。


信州大学について
国立大学法人信州大学は、長野県 4 地域(長野市、松本市、上田市、南箕輪村)の 5 つのキャンパ
スに、人文学部、教育学部、経法学部、理学部、医学部、工学部、農学部、繊維学部の8学部を有する
総合大学です。今年で創立 70 周年を迎えました。医学部附属病院は、32 診療科、707 病床を有する長
野県唯一の国立大学病院であり、特定機能病院として安全で安心な医療を提供するとともに、最先端
の研究に基づく先進的医療の提供、次世代の国際的な医療人材の育成に努めています。


ブライトパス・バイオについて
従来の標準治療の適用が困難な難治性・進行性のがんに対する治療法としてがん治療の革新をもた
らしつつある「がん免疫療法」の開発を行う創薬バイオベンチャーです。米国で臨床試験を実施中のが
んペプチドワクチンをパイプラインとして有するほか、細胞医薬の開発、免疫制御分子に対する抗体、
がん細胞特異的な遺伝子変異に由来するネオアンチゲンを標的とした新薬の開発を行っています。


問い合わせ先
・国立大学法人信州大学 医学部小児医学教室 田中美幸
Tel: 0263-37-2642
E-mail: miyuki@shinshu-u.ac.jp
https://www.shinshu-u.ac.jp/
・ブライトパス・バイオ株式会社 管理部
Tel: 03-5840-7697
E-mail: irpr05@brightpathbio.com
https://www.brightpathbio.com/index.html





【補足資料】
固形がんを対象としたCAR-T細胞療法(BP2301)
2019年8⽉19⽇
CAR-T細胞の抗腫瘍作用の仕組み
Chimeric Antigen Receptor(CAR)は腫瘍抗原を認識する部位と抗腫瘍効果を発揮す
るためのシグナルを細胞内に伝えるための部位を併せ持つタンパク質で、CARをT細胞
に導入することで、特定の腫瘍抗原を認識するT細胞を人工的に作ることが可能





CAR-T細胞療法の治療の流れ
患者自身から採血で取得したT細胞にCAR遺伝子を導入し、拡大培養後に患者の体内に
戻すことで、対象となる固形がんに対して直接的な抗腫瘍効果が得られることを想定





BP2301の特徴
BP2301は、メモリーフェノタイプが多く含まれるT細胞を使うことが特徴で、投与さ
れたCAR-T細胞が体内で継続的に増殖し維持されることを目的にデザインされており、
より持続的な抗腫瘍効果が期待される

T細胞の分化段階と機能の関係 BP2301のT細胞プロファイル

分化が進むことにより、T細胞のエフェクター機能(抗腫瘍機 メモリー細胞が同時に投与されることで、継続的にエフェク
能)は増強するが、細胞集団としての持続性は失われる ター細胞が産生される体内の環境を作ることができる(下図
左)。エフェクター細胞のみだと、一過性の効果となってし
まう(下図右)





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