産学官共同研究「IT-はなびらたけプロジェクト」研究成果のご報告

平成 29 年 3 月 22 日
各 位

上場会社名: 株式会社インタートレード
代表者名: 代表取締役社長 尾﨑 孝博
(コード番号:3747 東証二部)
本社所在地: 東京都中央区新川一丁目 17 番 21 号
問い合わせ: 業務執行役員 丸山 與一
電話番号: 03-4540-3002
U R L : http://www.itrade.co.jp/


産学官共同研究「IT—はなびらたけプロジェクト」研究成果のご報告


ハナビラタケの標準化と有効活性の発見
~ハナビラタケが女性ホルモンの代わりになることを明らかにした~



株式会社インタートレード(以下「インタートレード」)は、平成 26 年 10 月 23 日リリース「ハナビ
ラタケ共同研究開始のお知らせ」のとおり、学校法人東京女子医科大学(以下「東京女子医大」)及び
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)との産学官による共同研究(以下「IT—はな
びらたけプロジェクト」
)を開始し、ハナビラタケの有効成分の探究を進めてまいりました。
このたび、本研究において標準ハナビラタケ株の確立と有効活性の発見を行いましたので、下記のと
おりご報告いたします。なお、今回の研究成果につきましては関連する特許を出願しましたが、引き続
きさらに詳細な有効性などの研究を継続する予定です。


【ポイント】
 キノコゲノムを有効成分の探索と品質管理に
完了したゲノムプロジェクト※1 は一万種に上るが、キノコゲノム(カビ類も含む)はまだ25種程度しか決定
されていない。今回、インタートレードは東京女子医大及び産総研と共同してハナビラタケの全ゲノム配
列を決定した。これによりインタートレードが提供するハナビラタケを標準株として確立し、今後ハナビラタ
ケの有効成分の探索と品質管理に利用することが可能になった。

 ハナビラタケから新しい細胞活性を発見
標準ハナビラタケ株抽出物から新しい細胞活性を発見した。今回発見した細胞活性はサイレントエストロ
ゲンと呼ばれる、従来のエストロゲン※2 活性の利点を保持し、同時にがんの増殖を活性化するという欠点
を持たない活性であり、その成分はエストロゲン製剤 ※3、抗エストロゲン剤、抗がん剤、抗動脈硬化剤、
健康食品などに利用が可能であると考えられる。
1.背景
これまでハナビラタケには抗腫瘍作用、血糖降下作用、免疫活性作用など多くの生理活性が報告され
てきました。しかしながら、いずれもその有効成分は高分子多糖体のβ-グルカンによるものとして報告
されることが多く、その他の有効成分についてはほとんど解明されていませんでした。このβ-グルカン
はヒトの体内では消化・吸収されないものの、腸管免疫に作用して免疫を活性化するなど様々な生理活
性を示すことが知られています。
インタートレードは2013年に実施したヒト臨床試験の結果などから、β-グルカンだけでは説明ができ
ない事象があり、別の関与成分があると考えて研究を続けてまいりました。特に、産学官の共同研究で
あるIT—はなびらたけプロジェクトで東京女子医大及び産総研が加わったことで、細胞・分子レベルの探
究が可能となり、ハナビラタケの有効成分に関する解明が進んでいます。
また、女性ホルモンのエストロゲンについては、その急激な減少により女性の更年期障害※4や様々な疾
患が引き起こされることが知られています。女性のエストロゲン分泌は、20代から30代にピークを迎え
た後、徐々に減少を続けて閉経前に急激に減少します。このようなエストロゲンの欠乏によってホルモ
ンバランスが乱れ、更年期障害の自立神経失調症状や精神症状として体調に異変が現れると言われてい
ます。また、閉経後はLDLコレステロールが上昇するとともに、動脈硬化が進むことが知られていますが、
これもエストロゲンの欠乏が原因とされています。このエストロゲンの欠乏に対する治療にホルモン補
充療法があり、エストロゲンを直接投与することでこれらの症状を緩和しています。ところが、このエ
ストロゲンには細胞増殖活性があり、乳癌や子宮内膜癌のリスクが増大するなどの副作用が知られてい
ます。そのため、細胞増殖活性がないか、または副作用のリスクが低い植物由来のエストロゲン様化合
物を用いたエストロゲン療法※5が注目されています。このようにエストロゲン活性を有するものの、細胞
増殖作用がない化合物は「サイレントエストロゲン」などとも呼ばれています。


2.研究成果
(1)全ゲノム解析によるハナビラタケ標準株の確立
これまでに完了したゲノムプロジェクトは一万種に上りますが、キノコゲノム(カビ類も含む)はま
だ25種程度しか決定されていませんでした。このような中で、今回ハナビラタケでは初めて全ゲノム
解析を実施しました。その結果、全ゲノム配列を決定し、この予測されたゲノム全長は約 34Mb(メガ塩
基対)となり、ゲノム情報には約 1 万個の遺伝子が含まれることが明らかになりました。なお、今回取
得した全ゲノム解析データは国立遺伝学研究所(DDBJ)に登録しています。
ハナビラタケには、種レベルでの区別が簡単ではないために二つ以上の分類群が混同される場合があ
りますが、全ゲノム配列を決定して標準株を確立したことで、今後は同株を用いてハナビラタケの安定
供給や有効成分の効果や量に関して品質管理が容易になります。また、全ゲノム解析データに含まれる
有用遺伝子に関する情報についても今後の利用が可能になります。
(2)ハナビラタケのエストロゲン作用
これまで産総研では、DNA チップ※6 を利用した新しいホルモン活性測定法を確立し、様々な化学物質や
天然物有効成分の評価を行ってきました。本研究で用いた DNA チップを利用した新しいホルモン活性測
定法は、化学物質に特有の遺伝子の発現に対する影響をプロファイリングすることで、従来の細胞によ
る活性評価法より高い感度の測定結果を得ることが可能になりました。また、従来の細胞による活性評
価法は細胞増殖を活性の根拠にするため、細胞増殖活性のないエストロゲン様化合物は検出できないと
いう問題がありました。DNA チップを利用した新しいホルモン活性測定法を利用することで、漢方薬や健
康食品原料に抗動脈硬化作用などを示すエストロゲン様化合物が含まれていることを示し、その一部を
単離するなどの実績を上げてきました。
本研究では、この DNA チップを利用した新しいホルモン活性測定法を用いてハナビラタケ抽出物を検
定したところ、エストロゲンに似た遺伝子への影響が認められ、それはタンパク質レベルでも確認する
ことができました。エストロゲン様の細胞増殖活性は認められないことから、その作用は従来のエスト
ロゲン作用とは異なる新しいメカニズムによることが明らかになりました。
本研究成果によって、今後ハナビラタケが新しいエストロゲン製剤としてエストロゲン療法や創薬に
利用できるだけでなく、この化学物質を利用した癌のリスクのない新しいタイプのホルモン薬の開発が
期待できます。


(3)ハナビラタケの脂質代謝改善作用
マウスにハナビラタケ培養乾燥物を 10 週間連日経口投与した後、血液生化学的検査により脂質代謝を
評価しました。その結果、総コレステロール及び遊離脂肪酸ともに低値傾向を示しました。これにより、
脂質代謝の改善作用が期待できます。


(4)ハナビラタケの安全性評価
生物学的安全性評価として、ハナビラタケ培養乾燥物とハナビラタケ熱水抽出物 SCE(抽出乾燥物)を
マウスに単回経口投与し、その急性毒性を評価しました。その結果、投与後の一般状態、体重推移およ
び剖検所見においてハナビラタケ培養乾燥物とハナビラタケ熱水抽出物 SCE(抽出乾燥物)に起因する変
化は認められませんでした。


3.今後の展開
本研究により、ハナビラタケがより安全なエストロゲン製剤として利用できる可能性が明らかになり
ました。IT—はなびらたけプロジェクトでは、有効成分の探索と利用に関する研究を継続するとともに、
ヒトでの有効性及び安全性をさらに詳しく検証するため、ヒト臨床試験を予定しています。
今後はハナビラタケのエストロゲン作用の特性を活かした製品開発を進めながら、本研究の当初目的
でもありましたが、ハナビラタケ抽出物及びその成分について健康食品、創薬、診断などへの利用に向
けた取り組みを進めてまいります。
【本件に関するお問い合わせ先】
本研究に関するお問い合わせ先 IR に関するお問い合わせ先
株式会社インタートレード 株式会社インタートレード
IT—はなびらたけプロジェクト担当 経営管理部 IR 担当
〒104-0033 東京都中央区新川 1-17-21 茅場町ファーストビル 3 階
TEL:03-3537-7450(代) FAX:03-3537-7460 URL:http://www.itrade.co.jp/


【用語説明】
※1 ゲノムプロジェクト
生物の DNA に書かれた全遺伝情報をゲノムと言い、生物の全 DNA 配列を決定するような研究をゲノム
プロジェクトという。これまでにウイルス、細菌、動物など様々な生物の全遺伝子の配列が決定されて
きた。


※2 エストロゲン
エストロゲン(卵胞ホルモンまたは女性ホルモン)は、ステロイドホルモンの一種で、卵巣の顆粒膜
細胞などでコレステロールから作られる。エストロゲンの生理機能は、乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵
制御、中枢神経(意識)女性化、動脈硬化抑制などがあるが、まだすべては解明されていない。エスト
ロゲン活性は、様々な生化学的、分子生物学的、細胞生物学的及び生物学的試験法により検定すること
が可能であり、例えば、リガンド結合試験、レポーター遺伝子試験、遺伝子発現プロファイリング、酵
素活性試験、ELISA による抗体試験、細胞増殖試験、微生物・動植物試験などがある。これらの検定法に
よってエストロゲンと同様の変動が認められる化学物質もエストロゲン様化合物に含むことができる。
エストロゲン様化合物はエストロゲンの生理作用や遺伝子に対する影響など、エストロゲンが示す作用
のすべてまたは一部を示す化学物質のことであり、内在性エストロゲン、植物エストロゲン、合成エス
トロゲン、環境エストロゲンなど様々な化合物がこれに含まれる。


※3 エストロゲン製剤
エストロゲン製剤とは、エストロゲン(例えば 17β-エストラジオール)の作用を模倣または阻止する
多数の化合物のことで、狭義として、エストロゲン療法に利用する薬剤のことを言う。エストロゲン製
剤には、エストロゲン受容体に結合し、エストロゲンと同じ作用を示す化学物質(エストロゲン受容体
アゴニスト)と、エストロゲンのエストロゲン受容体への結合を阻害する、またはエストロゲン受容体
に結合したエストロゲンの作用を妨害する化合物(エストロゲン受容体アンタゴニスト)がある。エス
トロゲン製剤の例にはタモキシフェンおよびラロキシフェンがある。タモキシフェンおよびラロキシフ
ェンは、骨粗鬆症、心血管疾患、乳癌などの治療や予防のために開発された。しかし、いずれも、顔面
潮紅などの副作用を誘導し、タモキシフェンは子宮内膜癌の促進など、様々な副作用を持つ。このため、
新たなエストロゲン製剤の開発が製薬企業にとって重大な課題となっている。


※4 更年期障害
更年期障害とは、卵巣機能の低下によるエストロゲンの欠乏に基づくホルモンバランスの崩れにより
起こる症候群で、自律神経失調症様の症状(脈が速くなる、動悸がする、血圧が激しく上下するなど)
や、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)
、多汗、頭痛、めまい、耳鳴り、腰痛、しびれ、知覚過敏、関
節痛や、精神的な症状(不安感やイライラ)など様々な症状を示す。現在日本では、更年期世代(閉経
期前後約 10 年間)の女性は約 2,000 万人いますが、その多くがエストロゲン欠乏による心身の様々な不
調を有していると言われており、更年期女性の 2~3 割が医師により「更年期障害」と診断されている。


※5 エストロゲン療法
エストロゲン療法は、症状に対してエストロゲン、あるいはエストロゲンの分泌や作用を促進または
抑制する薬剤を用いる治療法で、更年期の急激な女性ホルモン減少による更年期障害の緩和やホルモン
低下による骨粗鬆症の予防、あるいは、性同一性障害に対する治療などのために、不足するエストロゲ
ンを補充したり(エストロゲン補充療法)、別のエストロゲン活性化学物質を投与する(エストロゲン代
替療法)ことで治療を行うことである。エストロゲン療法の対象となる疾患あるいは症状は、エストロ
ゲン欠乏により発症または誘発される、卵巣機能不全または閉経、自律神経機能不全、睡眠周期の乱れ、
認知障害、運動機能不全、気分障害、摂食障害、心血管障害などがある。一方で、エストロゲン療法は、
虚血性発作、心筋梗塞、血栓塞栓症、脳血管疾患、および子宮内膜癌のリスク増大を含む、様々な重篤
な副作用を誘発する可能性があり、これらの副作用を誘発しない天然エストロゲンなどの非ステロイド
性エストロゲンや抗エストロゲン化学物質(エストロゲン受容体アンタゴニスト)など、新たな化学物
質を発見・合成するために膨大な研究が行われてきた。


※6 DNA チップ
DNA チップ(または DNA マイクロアレイ)は、数万から数十万に区切られたスライドガラス、またはシ
リコン基盤上に DNA の部分配列を高密度に配置し固定した分析器具である。この分析器具を用いること
により、数万から数十万の遺伝子発現を一度に調べることが可能になった。得られた遺伝子全体の発現
情報を遺伝子発現プロファイルと呼ぶ。



以 上

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