重度脊髄損傷に対する当社と慶應義塾大学による共同研究成果の論文掲載に関するお知らせ

2023 年 10 月 30 日
各 位
会 社 名 ク リ ン グ ル フ ァ ー マ 株 式 会 社
大阪府茨木市彩都あさぎ七丁目7番 15 号
住 所
彩都バイオインキュベータ 207
代 表 者 名 代 表 取 締 役 社 長 安 達 喜 一
(コード番号:4884 東証グロース)
問い合わせ先 取締役経営管理部長 村 上 浩 一
TEL.072-641-8739


重度脊髄損傷に対する当社と慶應義塾大学による共同研究成果の
論文掲載に関するお知らせ

当社と学校法人慶應義塾(理事長:伊藤公平、以下「慶應義塾大学」
)で進めております重度脊髄損傷
に対する共同研究の成果が、2023 年 10 月 16 日に国際学術雑誌「Inflammation and Regeneration(イン
フラメーション アンド リジェネレーション)
」のオンライン版に論文掲載されました。


当社は、現在、脊髄損傷急性期患者を対象に組換えヒト HGF タンパク質(以下「HGF」
)を投与する第Ⅲ
相臨床試験を実施すると共に、2021 年2月 10 日付け当社プレスリリースの通り、慶應義塾大学医学部生
理学教室 岡野栄之教授及び同大学医学部整形外科学教室 中村雅也教授と新規の脊髄損傷治療に関する
共同研究(以下「本研究」
)を並行して進めてまいりました。
本研究では、重度の脊髄損傷ラットに対して、急性期に当社が開発する HGF を投与し、その後亜急性期
に慶應義塾大学が保有する iPS 細胞由来神経幹/前駆細胞を移植することで、細胞移植単独治療よりも大
きな機能回復を得ることに成功しました。本研究成果に基づき、当社は慶應義塾大学と共同で特許の優先
権主張出願を行っております(2023 年9月8日付け当社プレスリリース参照)

今回、論文掲載された本研究成果では、脊髄損傷の急性期に HGF を前投与することで、炎症抑制のほ
か、血管新生、神経再生、髄鞘形成を含む組織再生が促進され脊髄微小環境が改善することが明らかとな
りました。また、この環境下において、亜急性期に移植した iPS 細胞由来神経幹/前駆細胞は生存率が向
上し、神経再生の促進により、細胞移植単独治療では十分な回復を認めない重度の脊髄損傷ラットにおい
ても運動機能が大幅に回復することが確認されました。今後は、本研究成果を基に、急性期から亜急性期
の脊髄損傷に対する組合せ治療法の早期の開発・実用化が期待されます。


【論文】
英文タイトル:Hepatocyte growth factor pretreatment boosts functional recovery after spinal
cord injury through human iPSC-derived neural stem/progenitor cell transplantation
タイトル和訳:肝細胞増殖因子の前処置がヒト iPSC 由来神経幹細胞/前駆細胞移植による脊髄損傷後の
機能回復を促進する
著者名:末松悠、名越慈人*、篠崎宗久、加瀬義高、西條裕介、橋本将吾、柴田峻宏、梶川慶太、鎌田泰裕、
尾崎正大、安武かおり、信藤知子、芝田晋介、松本守雄、中村雅也、岡野栄之*(*責任著者)
掲載誌:Inflammation and Regeneration(オンライン版)
DOI:10.1186/s41232-023-00298-y
HGF(Hepatocyte Growth Factor, 肝細胞増殖因子)について
HGF は、成熟肝細胞の増殖を促進する生体内タンパク質として日本で発見されました。その後の研究か
ら、HGF は細胞増殖に加えて細胞運動促進、細胞死抑制、形態形成誘導、抗線維化、血管新生など多彩な
生理活性を有し、肝臓のみならず、神経系、肺、腎臓、心臓、皮膚など様々な組織・臓器の再生と保護を
担うことが明らかになりました。
HGF は神経保護作用や軸索伸展作用も有し、神経難病とされる脊髄損傷に対する薬理効果は、慶應義塾
大学医学部生理学教室 岡野栄之教授及び整形外科学教室 中村雅也教授らのグループの研究により明ら
かにされており、新たな脊髄損傷治療薬として、HGF への期待が高まっています。
他方、京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 平野滋教授らのグループは、HGF の抗線維化
作用に着目し、線維化疾患である声帯瘢痕に対する薬理効果を明らかにしました。HGF には、声帯瘢痕を
端緒として、他の線維化疾患への適応拡大の可能性が期待されています。


iPS 細胞由来神経幹/前駆細胞について
ヒト iPS 細胞(人工多能性幹細胞)に由来し、未分化な状態を保ったまま増殖することが可能な自己複
製能と、中枢神経系を構成する3系統の細胞(ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)へ
と分化できる多分化能を併せ持つ細胞です。
現在、慶應義塾大学病院において、
「亜急性期脊髄損傷に対する iPS 細胞由来神経前駆細胞を用いた再
生医療」の臨床研究が実施されております。詳細は、同大学による 2022 年1月 14 日付けプレスリリース
をご参照ください。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/1/14/220114-1.pdf


脊髄損傷について
脊髄の外傷による損傷のことで、受傷原因は平地転倒 交通事故 転落などの順に多いとされています。
・ ・
近年は、人口の高齢化に伴い、転倒による受傷が増加傾向にあります。国内では、年間に約6千人の脊髄
損傷患者が発生しており、慢性期までを含めた患者総数は 10~20 万人と言われています*。
適切な初期治療と専門的なリハビリテーションにより一定の回復が望めますが、運動麻痺や筋の痙性、
拘縮、知覚麻痺、体幹内臓機能不全(膀胱直腸障害、発汗体温調節機能障害、内臓機能低下、呼吸機能低
下)などの複合した重度の後遺障害が残る場合が多く、治療薬の開発が強く望まれています。
出典:Miyakoshi N et al. Spinal Cord 2021 Jun;59(6):626-634.



坂井宏旭ら「わが国における脊髄損傷の現状」(2010)


クリングルファーマ株式会社について https://www.kringle-pharma.com/
当社は「難治性疾患治療薬の研究開発を行い、難病に苦しむ患者さんに対して画期的な治療手段を提供
し、社会に貢献すること」を企業理念とし、希少疾病を対象に HGF タンパク質医薬品の自社開発を推進す
るバイオベンチャー企業です。
現在、当社が有する HGF タンパク質医薬品の開発パイプラインでは、脊髄損傷急性期を対象とする開発
と、声帯瘢痕を対象にした開発の2つのいずれもが、それぞれ医薬品開発の最終段階である第Ⅲ相臨床試
験に進んでおります。
当社は、HGF タンパク質性医薬品の社会実装を通じて新たな価値を創造し、人々の健康と幸せに貢献し
てまいります。


以上

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