相転移物質の利用による三次電池の高電圧化に成功-室温付近の熱環境で充電可能な自立型電源の実現に向けて-

独立行政法人国立高等専門学校機構
群馬工業高等専門学校
National Institute of Technology (KOSEN),
Gunma College




2020 年 2 月 6 日
報道関係者各位
国立大学法人 筑波大学
独立行政法人 国立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校
株式会社 フォーカスシステムズ



相転移物質の利用による三次電池の高電圧化に成功
~室温付近の熱環境で充電可能な自立型電源の実現に向けて~



研究成果のポイント
1. 電極材料の相転移を活用することにより、三次電池の電圧を 120mV 程度まで上昇することに成功しま
した。
2. 三次電池は、室温付近の環境熱で充電される自立分散電源であり、交換・管理が不要なことから、各種
センサーなどの電源として有望です。
3. 今後の材料設計により、さらなる起電力の巨大化が期待されます。


国立大学法人筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター(TREMS) 守友浩教授と国
立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校 柴田恭幸助教の研究グループは、相転移を示すコバル
トプルシャンブルー類似体(※1)を配置したビーカーセル型三次電池(※2)を試作し、13℃から 47℃への
昇温で 120mV 程度の起電力の発生に成功しました。この三次電池の熱効率(※3)は 0.9%であり、理論効
率(※4)の 11%に匹敵します。
IoT 技術などを幅広く活用する未来社会 Society5.0 の実現に向け、2023 年には世界のセンサー市場
が年間一兆個に達すると予想されています。しかしながら、それらの電池の交換・管理を行うことは現実的
ではありません。三次電池は、どこにでもある室温付近の環境熱で充電できる自立分散電源(※5)であり、
交換・管理が不要であることから、Society5.0 の必須技術の一つとされています。本研究グループは、未来
の自立分散電源として、かねてより三次電池を提案してきました。
本研究では、「物質の酸化還元電位は相転移の前後で不連続に変化するので、相転移物質を電極に
使用した三次電池では起電力が増大する」との考えに基づき、研究開発に取り組んできました。その結果、
相転移を示すコバルトプルシャンブルー類似体を利用した三次電池において、13℃から 47℃への昇温で
約 120mV の起電力を得ました。
今後、相転移材料の設計・開発により、さらなる起電力の巨大化が期待されます。また、産学連携による
研究開発を進め、三次電池の社会実装を目指します。
本研究成果は、2 月 4 日付「Scientific Reports」誌でオンライン公開されました。
* 本件は、科学研究費補助金、村田学術振興財団、国際科学技術財団、熱・電気エネルギー技術財団の研
究助成、および、(株)フォーカスシステムズとの共同研究の成果です。





研究の背景
「三次電池」は、どこにでもある室温付近の環境熱で充電される自立分散電源です。昼夜の温度変化、日向と日
陰、衣服の脱着、部屋への出入り、空調の On/Off など、地球上のどこにでもある、室温付近数十度の温度変化を
電力に変換する「自立」型電源で、設置場所を選ばない「分散」性を有しています。IoT 社会の実現に向かって、
2023 年にはセンサー市場が年間一兆個に達すると予想されており、それらの電池の交換・管理を行うことは現実
的ではありません。しかも、センサーがアクセスの困難な場所(砂漠、海洋、密林、山岳など)に設置されるケースも
少なくありません。自立分散電源は交換・管理が不要であり、内閣府が提唱する未来社会である Society5.0 の必
須技術の一つです。例えば、三次電池をビル内に設置される防犯カメラの電源にすれば、昼夜の空調の On/Off で
充電され、永続的に防犯カメラを駆動し続けます。また、荷物にとりつける GPS センサーの電源にすれば、荷物の積
み下ろし時の温度変化で充電され、永続的に位置情報を発信し続けます。
本研究グループでは、これまで、コバルトプルシャンブルー類似体(Co-PBA: 図1)薄膜とマンガンプルシャンブ
ルー類似体(Mn-PBA)薄膜を電極材料としたビーカーセル型三次電池を試作し、その動作を実証してきました。し
かしながら、13℃から 47℃の温度変化で得られる起電力は 39mV と小さく、単セルではセンサーを駆動できませ
ん。そこで、「物質の酸化還元電位は相転移の前後で不連続に変化するので、相転移物質を電極に使用した三次
電池では起電力が増大する」と考え(図 2)、研究開発を推進してきました。




図 1 コバルトプルシャンブルー類似体の結晶構造。左図は完充電時、右図
は完放電時を示す。大きな赤丸、小さな青丸、小さな赤丸はそれぞれ、
ナトリウムイオン、コバルトイオン、鉄イオンを示す。




図 2 相転移を活用した三次電池の模式図。この例では、負極材料の酸化還
元ポテンシャルは、低温相(高温相)では高い(低い)としている。





研究内容と成果
本研究では、二種対のコバルトプルシャンブルー類似体(NaxCo[Fe(CN)6]0.82 および NaxCo[Fe(CN)6]0.90)薄膜を、
電解析出法でインジウム錫酸化物(ITO)透明電極上に製膜しました。膜厚は 1μm 程度です。NaxCo[Fe(CN)6]0.82
(NCF82)は、室温直上で低温相から高温相へ相転移します。他方、NaxCo[Fe(CN)6]0.90(NCF90)は低温相のまま
です。あらかじめ NCF90 と NCF82 薄膜を Ag/AgCl 標準電極に対して 1.01V まで酸化し、ビーカーセル型三次電
池を組み上げました。正極、負極、電解液は、それぞれ、NCF90、NCF82、10mol/L の NaClO4 水溶液です。この三
次電池において、13℃から 47℃へ昇温することで、120mV 程度の起電力の発生に成功しました(図 3(a))。また、
47℃で三次電池を放電したところ、2.3mAh/g の電荷量を取り出すことができました(図 3(b))。Co-PBA の比熱と
潜熱を考慮して、熱効率は 0.9%と評価されました。これは、理論効率の 11%に匹敵します。



(a) 昇温過程 (b) 放電過程
起電力 (mV)




起電力 (mV)
st

nd




温度 (℃) 電荷量 (mAh/g)
図 3 相転移を活用した三次電池の(a)昇温過程と(b)放電過程。白丸と赤丸
は、それぞれ、一回目と二回目のデータである。放電過程の下限電圧
は 80mV に設定した。
Vcell (mV)





(c) cooling -100
-200
Vcell (mV)





今後の展開 100 Q (mAh/g)
相転移を活用した三次電池は、どこにでもある環境熱から大きな起電力を得る有望な技術です。高機能な相転
L (d) discharge at T
移材料を設計・開発することにより、起電力をさらに巨大化できると期待されます。今後、相転移材料の設計・開発
0 T = 283K L
を進め、さらなる起電力の巨大化を目指すとともに、産学連携を通じて三次電池の社会実装を目指します。

Tcell (K)
用語解説
※1 コバルトプルシャンブルー類似体
プルシャンブルー類似体の一種で、NaxCo[Fe(CN)6]y の化学組成を持つ。Fe 濃度(y)により、相転移温度を精密
に制御できる。また、高い放電容量と高い安定性を示すため、二次電池材料としても有望である。
※2 三次電池
正極と負極の酸化還元電位の温度係数が異なることを利用して、わずかな温度変化で充電される電池。二次
電池が電力により充電されるのに対して、三次電池は環境熱で充電される。
※3 熱効率
熱機関の効率を表す物理量。温度サイクルに対して、[電池が発生した電気エネルギー]/[電池に流れ込んだ正
味の熱量] で定義される。
※4 理論効率
高温(TH)と低温(TL)の間で動作する熱機関の効率の最大値であり、1-TL/TH で表される。カルノー効率とも呼
ばれる。





※5 自立分散電源
環境熱などの自然エネルギーを電力に変化し、かつ、設置場所の制限が小さな電源。Society5.0 を担うセンサ
ーの電源として、必要な技術である。三次電池はどこにでもある環境熱で充電されるので、自立分散電源の一つ
と言える。


掲載論文
【題名】 Energy harvesting thermocell with use of phase transition
(相転移を活用した三次電池によるエネルギーハーベスト)
【著者】 Takayuki Shibata(柴田恭幸), Hiroki Iwaizumi (岩泉滉樹)、Yuya Fukuzumi(福住勇矢), and Yutaka
Moritomo(守友浩),
【掲載誌】 Scientific Reports (DOI: 10.1038/s41598-020-58695-z)


問合わせ先
【研究に関すること】
守友 浩(モリトモ ユタカ)
国立大学法人 筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター 教授


柴田 恭幸(シバタ タカユキ)
独立行政法人 国立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校 一般教科(自然科学) 助教


【取材・報道に関すること】
国立大学法人 筑波大学 広報室
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Fax: 029-853-2014
E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp


独立行政法人 国立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校 総務課 総務・広報・評価係
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