RNAアプタマーが濃縮される過程を解析ー抗体に代わる次世代分子標的医薬品の開発の効率化に寄与ー

RNAアプタマーが濃縮される過程を解析
-抗体に代わる次世代分子標的医薬品の開発の効率化に寄与-

平成 29 年 3 月 22 日
株式会社 リボミック
学校法人 千葉工業大学



■ 概 要 ■
株式会社 リボミック(代表取締役社長 中村 義一)(以下「リボミック」という)青木 一晃 研究員は、
千葉工業大学(学長 小宮 一仁)(以下「千葉工大」という)先進工学部 生命科学科 坂本 泰一 教授と
共同で、RNA アプタマー注1)が濃縮される過程を核磁気共鳴分光法(NMR 法)注2)によりモニタリングす
ることに成功しました。
現在、抗体医薬品に続くバイオ医薬品としてアプタマー医薬品が期待されています。このようなアプタ
マー医薬品の開発において、SELEX 実験注3)と呼ばれる技術が基盤となっていますが、この SELEX 実
験は熟練した研究者の勘と経験によるところが大きく、SELEX 実験が成功する確率は必ずしも 100%と
はいえません。今回、SELEX 実験において RNA アプタマーが濃縮される過程を NMR 法で簡便にモニタ
リングできることを明らかにしました。今後、NMR 法を用いて SELEX 実験をモニタリングすることによって、
SELEX 実験の成功率が上がり、アプタマー医薬品の開発が促進されることが期待されます。なお、この
研究の詳細は、Springer Nature が発行する学術雑誌 Scientific Reports に論文として掲載される予定で
あり、3 月 21 日付けで電子版に掲載されました。


■ 研究の社会的背景と経緯 ■
これまで治療が難しかった病気に効果があるバイオ医薬品が開発され、様々な病気が治るようになっ
てきています。現在、このようなバイオ医薬品は、主に抗体医薬品とよばれるタンパク質の医薬品です。
一方、加齢黄斑変性症の治療薬として、RNA でつくられたアプタマー医薬品が上市されており、抗
体医薬品に続くバイオ医薬品としてアプタマー医薬品が期待されています。
リボミックでは、独自の創薬プラットフォーム「RiboART システム」を活用して、次世代型分子標的薬で
あるアプタマー医薬品を開発しており、現在、様々な疾患に対するアプタマー医薬品について前臨床試
験をおこなっています。リボミックと千葉工大の研究チームは、10 年以上にわたってアプタマー医薬品の
開発のための基礎研究をおこなってきており、アプタマー医薬品が作用するメカニズムを明らかにしてき
ました(参考文献 1-3)。今回、アプタマー医薬品を開発する際におこなう SELEX 実験に着目し、NMR 法
によって SELEX 実験の過程を分析したところ、アプタマーが濃縮される過程をモニタリングすることに成
功しました。今後、NMR 法を用いて SELEX 実験をモニタリングすることによって、アプタマー医薬品の開
発が促進されることが期待されます。
なお、この研究開発の一部は、平成 23〜27 年度 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事




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業「長鎖 RNA の機能構造を発見するための技術基盤の開発とその応用(研究代表者 河合剛太)」
(S1101001)の支援を受けておこないました。


■ 研究の内容 ■
アプタマー医薬品を開発する際におこなう SELEX 実験では、1015 種類のランダムな配列の核酸プール
を作成した後、その配列プールの中から標的分子に結合する配列の選別と増幅を繰り返すことで、標的
分子に非常に強く特異的に結合するアプタマーを得ることができます(図1)。病気の原因となっているタ
ンパク質を標的分子として実験をおこなえば、得られたアプタマーは病因タンパク質に強く結合してその
働きを阻害することにより、治療薬となります。SELEX 実験では、選別と増幅を繰り返すたびにランダム
な配列のプールからアプタマーが濃縮されたプールに変わっていきます(図2)。従来、アプタマーがどの
ように濃縮されてくるのかは明らかになっておらず、アプタマーの取得は熟練した研究者の勘と経験によ
るところが大きい実験でした。しかし近年、次世代シーケンサーの普及によって SELEX 実験の過程の核
酸プールの配列を解析することが可能となり、それまで明らかとなっていなかった SELEX 実験の過程が
明らかになることが期待されています。
現在、次世代シーケンサーによって SELEX 実験の効率化が進められていますが、次世代シーケンサ
ーによる配列解析は、時間と高い試薬が必要です。そこで、NMR 法を用いて SELEX 実験の過程を解析
することを試みました。その結果、RNA プールの変化を NMR 法によってモニタリングできることを明らか
にすることができました(図3)。NMR の測定では、SELEX 実験のために調製した RNA プールをそのまま
使用することができ、測定後に回収して SELEX 実験に利用することができます。また、NMR 測定から得
られる NMR スペクトルには、アプタマーの立体構造についての情報が含まれています。アプタマーの作
用には、その立体構造(図4)が重要であるため、NMR によるモニタリングによってアプタマーの開発が
効率化することが期待されます。




図 1 SELEX 実験の概要
ランダムな配列の RNA プールに標的タンパク質を加えて、結合したものを選別する。結合した配列を
増幅することにより、結合する RNA のプールを得る。さらに、この結合したプールを用いて選別・増幅
をおこなう。この選別・増幅を数回~十数回繰り返すことにより、結合が強い RNA アプタマーを得る。




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図 2 SELEX 実験における RNA プールの変化
ランダムな配列の RNA のプールから選別と増幅を繰り返すことによって、B の配列が濃縮される。B の配
列の RNA がアプタマーとなる。




図3 SELEX 実験の過程の NMR によるモニタリング
SELEX 実験の選別と増幅を繰り返す際に、NMR スペクトルを測定する。最初のランダムな配列の NMR
スペクトル(下)が、アプタマーに特徴的な NMR スペクトル(上)に変化する。




図4 アプタマーと標的タンパク質の相互作用モデル
左がアプタマーで右が標的タンパク質。アプタマーは特徴的な立体構造によって標的タンパク質
に結合する。




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■ 今後の展開 ■
本研究では、NMR 法を用いることによって SELEX 実験で RNA アプタマーが濃縮される過程をモニタリ
ングできることを明らかにしました。NMR 法は、分子の立体構造を原子座標レベルで明らかにすることが
できる手法なので、モニタリングの方法を改良することによって、さらに多くの情報が得られることが期待
できます。現在、次世代型分子標的薬としてアプタマー医薬品の開発が重要となっていますが、今後、ア
プタマー医薬品の開発を効率的におこなうことができるようになり、多くの病気の治療が可能になること
が期待されます。




■ 本件問い合わせ先 ■
株式会社 リボミック
IR 担当 〒108-0071 東京都港区白金台 3-16-13
白金台ウスイビル 6 階
TEL : 03-3440-3303 FAX : 03-3440-3729
E-mail: ir@ribomic.com


学校法人 千葉工業大学
先進工学部 生命科学科
教授 坂本 泰一 〒275-0016 千葉県習志野市津田沼 2-17-1
TEL:047-478-0317 FAX:047-478-0317
E-mail: taiichi.sakamoto@p.chibakoudai.jp




【取材に関する窓口】
株式会社 リボミック
IR 担当
〒108-0071 東京都港区白金台 3-16-13
白金台ウスイビル 6 階
TEL : 03-3440-3303 FAX : 03-3440-3729 E-mail: ir@ribomic.com


学校法人 千葉工業大学
入試広報課
〒275-0016 千葉県習志野市津田沼 2-17-1
電話:047-478-0222 FAX:047-478-0222 E-mail:cit@it-chiba.ac.jp




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【用語の説明】
注1)アプタマー
アプタマーは SELEX 実験によって得られる核酸分子(DNA および RNA)で、標的とするタンパク質に結合
してその働きを阻害あるいは調節する。近年、アプタマー医薬品は抗体医薬品に代わる次世代医薬品と
して注目されている。


注2)NMR 法
化学物質の分析手法のひとつである。現在、NMR 法を用いることによってタンパク質や核酸の立体構造
を明らかにすることが可能となっている。


注3)SELEX 実験
SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment) 実験は、in vitro selection 法ともよ
ばれる。1015 種類のランダムな配列の核酸プールを作成した後、その配列プールの中から標的分子に
結合する配列の選別と増幅を繰り返すことで、標的分子に非常に強く特異的に結合するアプタマーを得
る。




<論文名>
“NMR monitoring of the SELEX process to confirm enrichment of structured RNA”
(立体構造を形成した RNA の SELEX 過程における占有率の NMR モニタリング)




<参考文献>
1.Kinetic and thermodynamic analyses of interaction between a high-affinity RNA aptamer and its
target protein
Biochemistry, 55, 6221-6229 (2016)
2.Solution structure of a DNA mimicking motif of an RNA aptamer against transcription factor AML1
Runt domain
J. Biochem., 154, 513-519 (2013)
3.The Runt domain of AML1 (RUNX1) binds a sequence-conserved RNA motif that mimics a DNA
element
RNA., 19, 927-936 (2013)




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