メタバースの概念と段階的な発展による新潮流を提唱したホワイトペーパーを公開

White Paper
2022 年 2 月 24 日
Kudan株式会社



メタバースの概念と段階的な発展による新潮流を提唱した
ホワイトペーパーを公開


様々な場面で使用可能な SLAM 技術のリーディングプロバイダであるKudan株式会社(本社:
東京都渋谷区、代表取締役 CEO:項 大雨、以下 Kudan)は、この度、『メタバースの先にある世界
〜人工知覚が実現する「人間の機械化」と「機械の人間化」〜』と題したホワイトペーパーを別紙
にて公開しましたのでお知らせいたします。
このホワイトペーパーでは、世界中で大きなトレンドとなり注目を集めたメタバースの概念を俯瞰的
な立場で解説し、メタバースの段階的な発展にともなう新たな潮流や将来的な可能性を提唱しつつ、
Kudan が有する人工知覚(SLAM)技術の戦略的ポジションについても言及しています。




【Kudan株式会社について】
Kudan(東証上場コード: 4425)は機械(コンピュータやロボット)の「眼」に相当する人工知覚
(AP)のアルゴリズムを専門とする Deep Tech(ディープテック)の研究開発企業です。人工知覚
(AP)は、機械の「脳」に相当する人工知能(AI)と対をなして相互補完する Deep Tech として、
機械を自律的に機能する方向に進化させるものです。現在、Kudan は高度な技術イノベーションに
よって幅広い産業にインパクトを与える Deep Tech に特化した独自のマイルストーンモデルに基づ
いた事業展開を推進しています。
詳細な情報は、Kudan のウェブサイト(https://www.kudan.io/?lang=ja)をご参照ください。


■会社概要
会 社 名: Kudan株式会社
証券コード: 4425
代 表 者: 代表取締役 CEO 項 大雨


■お問い合わせ先はこちら





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メタバースの先にある世界
〜人工知覚が実現する「人間の機械化」と「機械の人間化」〜



はじめに
メタバース(Metaverse)は「コンピュータやコンピュータネットワークに構築
された 3 次元の仮想空間やそのサービス」として提唱されていますが、世界的企業
がメタバースに関連した社名に変更するなど、バズワードとして加熱が続いていま
す。

本ペーパーでは、バズワードの流行り廃りを超えた俯瞰を通してメタバースの背
景と将来を読み解き、合わせて Kudan の戦略的な取り組みを紹介します。



概要
本ペーパーの概要は以下の通りです。

- 「人間の機械化」と「機械の人間化」はテクノロジーの二大潮流である
- メタバースはこれまで「人間の機械化」にあてはまる「AR/VR 系メタバース」
であったが、「機械の人間化」にあてはまる「ロボット系メタバース」にも
拡張できる
- 二つのメタバースは、中核技術である「人間空間と機械空間の結合」を中心
に将来は統合される
- そこに向けて、AR/VR からロボティクスまで対応する空間結合が求められて
おり、Kudan が提供する独立性・汎用性が高い技術が重要となる




図:メタバースの拡張と統合


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テクノロジー発展の潮流
テクノロジーを俯瞰する視点の一つは、人間と機械の対立軸です。人間と機械が
お互いの性質を獲得し、接近していくという視点から歴史を振り返ると、テクノロ
ジー業界は常に「人間の機械化」と「機械の人間化」のどちらかに当てはまる形で
発展してきました。

(なお、ここでの「機械」は動力を持つメカニカルなものだけでなく、知能的なコ
ンピュータやロボットを含みます)

たとえば、古くは電話・電信からインターネット・SNS の発展の流れは、人間同
士のコミュニケーションや関係をデジタル世界に移行していくという意味で「人間
の機械化」と言えます。これに対して、産業革命から人工知能までの発展は、人間
が持っている動力や知能などの能力を機械が獲得してきたという意味で「機械の人
間化」と言えます。

一般的に提唱されているメタバースは「人間の機械化」に当てはまり、人間の意
識や体験をデジタル世界へと移すことでそれを加速させるものです。したがって、
バズワードとしてのメタバースは、「人間の機械化」の最新コンセプトと言えます。

一方で、「機械の人間化」の最新コンセプトは、ロボティクスや自動運転と見な
すことができます。これらのトレンドは、人間の判断や動作の能力を機械がより高
度に獲得していくものであり、メタバースとは完全に対照的なトレンドと言えます。



空間の結合
人間と機械が互いに接近していくという視点から見ると、「人間の機械化」と
「機械の人間化」の双方にとって不可欠な技術的要素が浮かび上がります。それは
「人間空間と機械空間の結合」です。

以下に、空間の結合が「人間の機械化」と「機械の人間化」のそれぞれでどのよ
うに起きているかをみていきます。



「人間の機械化」における空間の結合

これまで「人間が実在するリアル空間」と「機械が処理するデジタル空間」は
別々に成立してきました。たとえば、コンピュータゲームのモニターから見える画
像と、ゲームをしている部屋の現実空間は、これまで無関係でした。


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これに対してメタバースでは、娯楽体験のデジタル化という「人間の機械化」を
加速させるため、人間と機械にとって別々であった空間を結合します。たとえば、
メタバースを前提としたコンピュータゲームでは、ヘッドセット端末を通して、ゲ
ーム内の CG 世界がモニターを飛び出して、ゲームをしている部屋の現実空間を飲
み込むような経験を提供します。

これによって、ユーザーが部屋の中で動き回ったりすると、仮想世界が連動して
ユーザーに見えるので、CG に没入して仮想世界の中を見たり動き回ったりすること
ができるようになり、現実空間とデジタル空間が結びついている感覚をユーザーに
与えます。

この際、リアル空間(人間が動き回る現実空間)とデジタル空間(機械が情報処
理した CG 空間)がリアルタイムかつスムーズに同期されることが重要であり、リ
アリティが高いユーザー体験は、高度な空間結合技術の上に成り立っています。

なお、このようなメタバースには、仮想空間が現実空間を完全に上書きする VR
(仮想現実)と呼ばれる形式と、部分的に現実空間を残しつつ仮想空間が上書きさ
れる AR(拡張現実)と呼ばれる形式があります。AR と VR は同じ空間結合の原理
で動くので、現在一般的に提唱されているメタバースは「AR/VR 系メタバース」と
呼ぶことができます。



「機械の人間化」における空間の結合

同様の「人間空間と機械空間の結合」は、ロボティクスや自動運転といった「機
械の人間化」でも不可欠となります。

たとえば、カーレースのコンピュータゲームにおいて、コンピュータによる走行
シミュレーションは容易にできます。それは、デジタル空間の情報処理だけで完結
しているからです。

これに対して、実際の市街地で車の自動運転を行うことは、圧倒的に難しくなり
ます。自動運転においては、コンピュータが処理しているデジタル空間と、車が走
っている現実空間の二つが存在し、その二つを結びつける必要があります。

具体的には、コンピュータが処理するデジタル空間と、実際に車が走行している
現実空間情報とが同期していない限り(すなわち刻々と変化する車の位置や姿勢、
周囲環境を示す空間情報がリアルタイムに更新されていない限り)、どんなにコン
ピュータが高度な走行シミュレーションをしても、実際の市街地では車を走らせる
ことができません。

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自動車に限らず、動き回るあらゆるタイプのロボットに空間結合は必要です。ロ
ボットが車道を走れば自動運転車、工場内や倉庫内を動き回れば自動搬送ロボット、
商業施設を動き回ればサービスロボット、空を飛べばドローンとなります。本ペー
パーではそれらを全てまとめてロボットと呼びます。



コインの表裏
空間結合を中心に考えると、メタバースとロボティクスは正反対のコンセプトで
あることがわかります。リアル世界に住む人間がデジタル空間に入り込むのがメタ
バースであり、逆にデジタル空間を処理するロボットがリアル空間で動き回るのが
ロボティクスです。

「人間の機械化」と「機械の人間化」と同じように、メタバースとロボティクス
はコインの表裏、もしくは鏡に映った双子のような存在です。中核技術としての空
間結合は、双方にとってリアルとデジタルの繋ぎ目であり、そこを中心にメタバー
スとロボティクスでは人間と機械の位置が真逆になっています。

本 ペ ー パ ー で は こ こ に 着 目 し 、 一 般 的に 提 唱 さ れ て き た メタ バ ー ス で あ る
「AR/VR 系メタバース」に加えて、ロボティクスに対応する「ロボット系メタバー
ス」を提唱することで、メタバースの概念を大きく拡張します。




図:AR/VR 系メタバースとロボット系メタバースの関係




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「ロボット系メタバース」は現時点で「AR/VR 系メタバース」のようにメタバー
スとして一般的な概念ではありません。しかし、ロボット系は、後々に AR/VR 系と
統合されることで、メタバースを発展させて「人間の機械化」と「機械の人間化」
を融合するために重要となります。



中核技術としての人工知覚
AR/VR 系とロボット系の双方のメタバースにおいて、リアルとデジタルの空間結
合が中核技術となることを説明しましたが、これは技術的には人工知覚もしくは
SLAM と呼ばれる技術となります。

人工知覚は人工知能と対を成す技術であり、人工知能がパターン認識をつかさど
るのに対して、人工知覚は空間位置認識をつかさどります。

一方、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)はよりテクニカルかつ
狭義であり、センサーを搭載した機械が現実空間内を動き回った時に、現実空間の
状況と機械の動きに同期した仮想空間(正確にはデジタル 3D 地図)を作成する技
術です。

これらは人間の空間把握能力と酷似しています。たとえば、方向感覚に優れた人
が未知の環境を歩き回った際に、現実空間の三次元構造をコピーした地図を脳内に
思い浮かべ、自分の動きに合わせて脳内地図を回転させたり動かしたりしながら、
正確に自分が脳内地図のどこにいるかを理解するのと同じ原理です。

これを人間だけではなく機械もできるようになると、人間が実在する現実空間と
機械が処理するデジタル空間の完全な同期が可能になります。



メタバースの段階的な発展
ここまで、空間の結合を中心にして、メタバースの概念を AR/VR 系からロボット
系に拡張してきました。中核技術を共有するこの二種類のメタバースは密接な関係
にあり、共通の技術プラットフォームの上で統合されることが可能です。

将来的に高度化する需要と経済的な合理性に基づいて、そのような統合が進む可
能性は非常に高く、メタバース 1.0/メタバース 2.0/メタバース 3.0 の三段階で進
行していくと想定されます。





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メタバース 1.0
最初のメタバース 1.0 では、AR/VR 系とロボット系のそれぞれで、互換性のない
個別のメタバースが複数出現します。




図:メタバース 1.0 の構造



この段階は、ロボティクスを含む一般的なメタバースのほぼ全てに当てはまりま
す。現在はメタバースの黎明期にあり、各社はユーザーの囲い込みに注力していま
す。メタバース事業者にとって、他社への乗り換えがいずれ技術的に容易になるこ
とは、自社ユーザーに気付いてほしくない不都合なことであり、各社が閉じたシス
テムを最優先します。

その結果、メタバース事業者は自社サービスに最適化し、他社と互換性を持たな
い空間結合技術を実装するため、ユーザーにとってメタバースは全てバラバラに存
在することになります。



メタバース 2.0
次のメタバース 2.0 では、個別のメタバースに依存しない事業者がメタバースに
参入し、複数のメタバースを統合するソリューションを提供します。その結果、個
別のメタバース同士が互換性を持ち始めますが、AR/VR 系とロボット系の間には垣
根が残ります。言い換えれば、AR/VR 系とロボット系のそれぞれの領域内で、メタ


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バースの統合が進みます。なお、このような統合されたメタバースはインター・メ
タバースとも呼ばれます。




図:メタバース 2.0 の構造



この段階では、同じ空間における空間結合が複数のメタバースで共有されるため、
各メタバースでは効率化が大きく進みます。具体的には各機器(AR/VR デバイスや
ロボット)の仕様を大幅にダウングレードするコスト削減が可能になります。

そして、さらに重要なのは、並立する複数メタバースの間をユーザーやロボット
が行き来できるようになることで、大きな利便性を提供できることです。AR/VR 系
では、あるユーザーの体験を複数のメタバース上で同時に実現でき、ロボット系で
は多種類のロボットが同一プラットフォーム上で連携して機能するようになります。

この段階は AR/VR 系を中心に出現しつつあり、先進的な取り組みを Kudan はパ
ートナー企業(通信・通信機器・半導体など)と開始しています。たとえば、同じ
現実空間にいる複数のユーザーが同じ AR 体験をできるようにすることを目指す AR
クラウドの実現に向けて、様々なプラットフォームを統合する実証を進めています。
メタバース1.0 の段階では、Google(Android)ユーザー全員が共通して体験して
いる AR 体験は、同じ空間にいる Apple(iOS)ユーザーには全く見えないが、統一



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プラットフォームがあれば Android と iOS の全ユーザーは同じ AR 体験を得られ、
本来 AR が目指す真の価値が実現できるようになります。

同様の試みは、ロボット系のメタバースでも試験的に始まっており、Kudan は通
信系パートナーとの提携を通じて実証を進めています。先述の通りロボットは一般
的にはメタバースとして認識されていないものの、しばらくは汎用性の高いロボッ
トプラットフォームとして発展していく可能性が高いです。



メタバース 3.0
最後のメタバース 3.0 では、メタバース間の互換性がさらに拡大し、AR/VR 系と
ロボット系の垣根を超えて統合が進むことで、究極のインター・メタバースが出現
します。




図:メタバース 3.0 の構造



この段階では、メタバース 2.0 よりも空間結合が広く共有されるため、個別メタ
バースでの効率化とコストカットが加速度的に進みます。




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そして、さらに重要なのは、これまでメタバースに関連するとは考えられてこな
かったロボット系までが統合されていくことで、先進的なソリューションが数多く
出現することです。

これはテクノロジーの発展にとって重要な意味合いを持ちます。コインの表裏で
あった AR/VR 系とロボット系がメタバースとして統合することは、すなわちテクノ
ロジーの二大潮流である「人間の機械化」と「機械の人間化」がついに融合するこ
とを意味します。

したがって、人間と機械の関係性からみると、メタバース 3.0 は必然的に発生す
る段階であり、人間活動と機械活動がますます一体化していくようなソリューショ
ンが現実となっていくと考えられます。この段階では、あらゆる可能性が想定され
ていますが、本ペーパーでは「AR とロボットの融合」と「VR とロボットの融合」
の二つの方向性を紹介します。



AR(拡張現実)とロボットの融合

AR とロボットの融合では、空間における仮想的な拡張(AR)と物理的な拡張
(ロボット)が融合されます。具体的には、現実空間に浮かび上がって見えるあら
ゆるデジタル表示(AR)と、現実空間内を動き回るロボットとが相互に連携取りな
がら情報や制御が更新され、ユーザーが意図する目的を情報と物理の双方から達成
します。

たとえば、プラント建設の現場で働く A さんの働き方をイメージします。A さん
は AR ヘッドセットを身につけており、複雑な現場状況を理解しながら必要な工程
に次々移動するのに AR 表示によるナビゲーションを頼ります。AR ナビゲーション
は広大な現場を効率よく移動するためのセグウェイのような立ち乗りモビリティと
連携しており、必要に応じて自動運転ができます。さらに、AR ナビゲーションは
AR のモビリティだけではなく、自動搬送ロボットとも連動し、A さんが効率良く資
材を運搬することを助けます。作業中は、現場に立体図面や三次元モデルを実寸大
で AR 表示して作業計画を立てるだけではなく、必要に応じて測量ドローンを自動
操縦で飛ばして測量結果を AR 表示して作業進捗の管理をすることもできます。こ
うした機能はすべて A さんがヘッドセット越しにみた現場情報と連動しており、リ
アルタイムに表示・操作することが可能です。

このように、現実環境における多様な情報の可視化(AR)と、その環境の中での
ロボットの制御は、メタバース 3.0 によって高度に連携がとれるようになり、人間


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とロボットがともに共存するあらゆる状況にて活用ができます。産業や建設の現場
はロボットの導入が先行しているためイメージがしやすい例となりますが、今後は
あらゆる住居環境、職場環境、公共環境にてロボットの導入が加速する中、人々の
生活に欠かせないものになります。




図:AR とロボットの融合



SF 的な遠い未来の構想にも聞こえる AR とロボットの融合ですが、初期的な開発
は始まっています。たとえば、Kudan は自動運転と AR ナビゲーションの双方を実
現 す る 空 間 位 置 認 識 の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の 開 発 を 大 手 自 動 車部 品 パ ー ト ナ ー
(HERE、NNG)と取り組んでいます(詳細はこちら)。このプラットフォームで
は、自動車は走行レーンレベルの高精度な位置情報を認識することができ、将来的
に高精度な地図と連携して高レベルな自動運転の実用化を目指しています。加えて、
同じ情報を利用して自動車のナビゲーションやロードサイドの様々な有用情報を車
両のウィンドウに AR 表示することで、AR 体験と自動運転/運転支援の連携も可能
になります。

たとえば、ユーザーは自動車の操縦を自動運転機能に任せながら、ロードサイド
にレストランが見えた際は、駐車場の空き情報や店内の混雑情報をウィンドウに映
る AR 表示として見ることが可能になります。また、表示された AR をタッチしてレ
ストランの座席を予約したり、自動運転ルートの目的地に設定することも可能にな




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ります。さらに、自動運転から手動運転に切り替えて、フロントウィンドウに映る
AR 表示のナビゲーションにしたがって車を操縦することも可能です。

これまで、AR は主にユーザー自身が動き回ることによって得られるデジタル体験
でしたが、ユーザーが自動運転モビリティに搭乗している場合、AR のデジタル体験
はモビリティの自動運転と一体化することができ、より高度で先進的なユーザー体
験を提供することができるようになります。



VR(仮想現実)とロボットの融合

VR とロボットの融合では、ユーザーの活動範囲が本人の物理的な制約を超えて、
仮想・現実の両方で大きく拡大します。具体的には、インターネット上に広がる仮
想空間で活動できるだけでなく、ロボットを通してあらゆる現実空間でも活動でき
るようになります。仮想的なアバター(VR)に接続することであらゆる仮想空間内
で活動でき、物理的なアバター(ロボット)に接続することであらゆる現実空間内
で活動でき、そして接続する空間を自由に切り替えることでそれらを行き来できる
ようになります。

たとえば、小売業界で働く B さんの一日を想定しましょう。在庫管理を担当する
B さんは東京の自宅からバーチャルワークスペースに接続し、同僚と会議をします。
そこで B さんは、京都の店舗の在庫情報が間違っているのではないかという問題を
発見し、バーチャルワークスペースからその店舗にあるロボットに自分自身を接続
させ、そのロボットを乗っ取って店舗内を動き回って調査します。その結果、問題
の状況を確認し、再び意識をバーチャルワークスペースに再接続して、同僚と更な
る原因解明の議論を行います。そして議論の結果、大阪にある倉庫の在庫が誤って
管理されているのが原因であるという仮説を思い立ちます。そこで B さんは、今度
は大阪の倉庫にあるロボットに自分を接続させ、ロボットを乗っ取って倉庫内を調
査します。最終的に、倉庫内にある問題を特定し、バーチャルワークスペースに戻
って上司に問題と対策を報告します。そうして仕事を終えた B さんは、東京にある
現実空間に帰ります。

ここで A さんにとってのアバターは、バーチャルワークスペース上のデジタルな
ものだけではなく、自宅から離れた店舗や倉庫にある実在するロボットが該当しま
す。これによって、A さんは仮想的なアバターと物理的なアバターの間で自由に自
身を行き来させることができるのです。





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図:VR とロボットの融合



イメージとしては、仮想的なアバターを描いた人気 SF 映画「レディ・プレイヤー
1(2018年公開/スティーブン・スピルバーグ監督)」と物理的なアバターを
描いた人気 SF 映画「アバター(2009年公開/ジェームス・キャメロン監督)」
の二つを融合して両立させたような状態と言えます。

SF 的な遠い未来の構想にも聞こえるコンセプトですが、VR とロボットの融合に
つながる初期的な開発として、リモートのロボットに意識を接続する試みは既に始
まっています。

たとえば、コロナ禍の影響もあり、世界中でデリバリーロボットの開発や実証が
盛んになっており、Kudan も複数のプロジェクトに参画しています。デリバリーロ
ボットは無人での自動運転機能を備えていますが、まだ安全面で問題が発生したり、
立ち往生したりするケースも多く、その場合リモート待機しているオペレータから
の運転制御に切り替えて問題解決する必要があります。この際、オペレータがモニ
ター越しにロボットのカメラ画像を確認しながら運転制御するのではなく、VR ヘッ
ドセットを用いてロボットに自身を没入させて運転制御することが試みられていま
す。これはすなわち、自分の知覚を遠く離れたロボットに接続して制御し、必要に
応じて対象のロボットを切り替えたりするということを目指しています。




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以前は平面の画面越しだったテレビゲームが、VR ヘッドセットを通したゲームに
進化することによって、全く異なるユーザー体験が実現できるのと同様に、これま
でのモニター越しのリモートコントロールよりも高度なオペレーションを可能にす
ることを目指しています。具体的には、オペレーターはあたかも無人デリバリーロ
ボットの中に乗り込んでいるかのような没入感と一体感をもつことができるだけで
はなく(AR/VR 系メタバース)、自動運転機能によってロボットが取得するセンサ
ー情報や画像認識情報を効率よくオペレーターに反映させることも可能になるため
(ロボット系メタバース)、デリバリーロボットをより効率的かつ精度良くコント
ロールできるようになります。

こうした取り組みは、輸送、建設、災害支援、警備、エンターテイメント、など
様々な領域へと拡大を続けていくと考えられています。



Kudan の戦略的ポジション
メタバースへの注目が集まる前から、Kudan は空間結合(人工知覚/SLAM)の
研究開発を続けてきました。現在黎明期にあるメタバース 1.0 に向けては、AR/VR
系とロボット系の双方への技術提供に取り組んでいます。

一方で、メタバースの今後の発展を考えると、メタバース 2.0/メタバース 3.0 へ
の進化によって爆発的に技術の需要が高まっていくと想定しています。そうしたト
レンドを先見し、Kudan ではメタバース 1.0 だけでなく、メタバース 2.0/メタバ
ース 3.0 のニーズに向けて戦略的に技術と事業を進めてきました。



技術の独立性

メタバース同士の互換性を実現するメタバース 2.0 に向けては、個別のメタバー
ス事業に依存しない技術が求められます。

たとえば、メタバース 2.0 の事例として紹介した AR クラウドの取り組みでは、個
別のメタバース事業者(垂直事業者)は自社サービスに閉じる技術戦略をとってい
ます。そのため、統合ソリューションの提供を通して、メタバース 2.0 に参入しよ
うとする通信・半導体などの企業(水平事業者)は、垂直事業者の独自技術を直接
利用することはできません。





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そのため、すでに企業買収などを通して中核技術で大きく先行する垂直事業者に
対して、水平事業者は独立技術の確保が必須となりますが、独立系の空間結合技術
(人工知覚/SLAM)はすでに極めて希少性が高くなっています。

その結果、メタバース 2.0 への発展はこれから本格化するものの、主要企業が求
める技術パートナーの選択肢はすでに非常に限られています。Kudan はこのような
需要の高まりに向けて独立専業のポジションに注力してきたことで、水平事業者の
技術パートナーに選ばれ続けており、その存在は今後より一層重要となります。



技術の汎用性

AR/VR 系とロボット系の垣根を超えたメタバース 3.0 に向けて、AR/VR 系とロ
ボット系の双方をサポートする汎用的な技術が求められます。

これまでメタバースは、一般的には AR/VR 系のみに限定されてきたため、ロボッ
ト系メタバースへの拡張や、そのロボット系メタバースとの将来的な統合を見据え
た技術開発は行われていませんでした。

Kudan は AR/VR 系向けの技術を出自としていますが、これまで「人間の機械化」
だけではなく「機械の人間化」のトレンドも見据えて、ロボット系にも技術開発を
大きく拡大してきました。その結果、AR/VR 系とロボット系の双方に対して、汎用
的に機能することができる基盤技術を構築することができました。こうした実績が、
現在メタバース 3.0 に向けた様々なパートナーとの先進的な取り組みにつながって
います。

メタバース 3.0 では、メタバース 2.0 で必要とされた技術の独立性に加えて、この
汎用性を両立する必要があるため、その希少性は極めて高まっており、Kudan の技
術の重要性は今後さらに増すことが期待されています。



おわりに
本ペーパーで提唱したメタバースの拡張と発展は、バズワード化する昨今のトレ
ンドに対する当社の解釈となります。既存のメタバースがそのブームを継続するの
か、はたまた新たなバズワードがそれを発展的に置き換えるかは分かりません。

深層技術に注力する Kudan にとって重要なことは、既存のメタバースの枠組みに
囚われることなく、より普遍的なトレンドに合致する中核技術に注力していくこと



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です。その結果、必然的に発展していく「人間の機械化」と「機械の人間化」を加
速させ、人間と機械のありかたを進化させていくことが可能になると考えています。





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