最近の太陽活動によるGPSなど衛星測位システムの位置精度低下と対抗策としてのSLAMの有効性に関するブログ記事を公開

Technical Release
2022 年 8 月 4 日
Kudan株式会社



最近の太陽活動による GPS など衛星測位システムの位置精度低下と
対抗策としての SLAM の有効性に関するブログ記事を公開


様々な機器に人工知覚/SLAM 技術を提供するKudan株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締
役 CEO:項 大雨、以下 Kudan)は、この度、『最近の太陽活動による GPS など衛星測位システム
の位置精度低下とその対抗策』と題したブログ記事(別紙ご参照)を公開しましたのでお知らせいた
します。
近年、太陽活動の活発化とそれに伴う社会インフラへの障害が指摘されております。本ブログ記事は、
この太陽活動の活発化がもたらす影響について説明するとともに、GPS などの衛星測位システムに
依存しない複数アプローチの導入の必要性と衛星測位システムが利用できない場合の仕組みとしても
機能する SLAM の有効性について提唱しています。ぜひご一読ください。




【Kudan株式会社について】
Kudan(東証上場コード: 4425)は機械(コンピュータやロボット)の「眼」に相当する人工知覚
(AP)のアルゴリズムを専門とする Deep Tech(ディープテック)の研究開発企業です。人工知覚
(AP)は、機械の「脳」に相当する人工知能(AI)と対をなして相互補完する Deep Tech として、
機械を自律的に機能する方向に進化させるものです。現在、Kudan は高度な技術イノベーションに
よって幅広い産業にインパクトを与える Deep Tech に特化した独自のマイルストーンモデルに基づ
いた事業展開を推進しています。
詳細な情報は、Kudan のウェブサイト(https://www.kudan.io/jp/)をご参照ください。


■会社概要
会 社 名: Kudan株式会社
証券コード: 4425
代 表 者: 代表取締役 CEO 項 大雨


■お問い合わせ先はこちら





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最近の太陽活動による GPS など衛星測位システムの位置精度低下とそ
の対抗策




EUSPA(European Union Agency for the Space Programme)によると、全球衛星測位システム
(Global Navigation Satellite System、GNSS)とは宇宙から信号を送り、GNSS 受信機に位置とタ
イミングのデータを送信する衛星群のことを指します。受信機を備えた電子機器は、このデータを使
って地表での正確な位置を特定することができます。GNSS は衛星測位システムの総称で、日本でよ
く使われる「GPS」という名称はアメリカが開発したシステムで、GNSS の 1 つです。


GNSS は、受信機の位置をおよそ数メートルの精度で測定することが可能です。この技術をさらに改
良した代表的なものに RTK-GNSS(リアルタイム・キネマティック)があり、位置精度を約 1~4cm
程度にまで高めることができます。


RTK-GNSS は周囲に障害物があると容易に精度が悪化するため、通常他の位置測位システムと組み
合わせて用いますが、自律走行採掘トラック、農業用ロボットなどの一部の屋外向け自律走行車は、
周囲に障害物のない非常に開けた場所での運用のため GNSS、特に RTK-GNSS のみを使用している
ケースがあります。





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GNSS に何が起きたのか?

GNSS は、上記のような非常に開けた場所での自律走行車の正確な位置測定ができるにもかかわらず、
最近、GNSS や RTK-GNSS を活用している企業から相談を受けることが増えてきています。彼らは
RTK-GNSS を用いた位置測位システムを過去用いて運用してきたが、ここ最近その精度が低下して
いる、というものです。これらの企業では、GNSS 信号を安定的に利用できない場合、車両は運転を
停止し、信号が回復するまで待たなければならず、生産性に多大な損失を与えてしまいます。


企業は、もはや GNSS だけを測位システムとして信頼することができなくなっているのです。


なぜ、このようなことが起こっているのでしょうか。



なぜ GNSS は信頼できなくなっているのか?
GNSS 信号の信頼性低下は、過去に起きた太陽活動の活発化に関連していると考えられます。なぜそ
れが起こっているのか、詳しく説明していきます。


太陽では、他の星と同じように、非常に大きな爆発が定期的に起きているなかで、過去数ヶ月間、太
陽活動が絶え間なく活発化していることが観測されており、今後数年間はさらに増加すると予想され
ています。


EUSPA によると、太陽磁場の周期的な変動は約 11 年ごとに発生すると考えられており、最新の太
陽活動周期である「サイクル 25」は、2019 年 12 月に始まり、2023 年から 2026 年にかけてその影
響が最大になると予想されています。


宇宙の天気予報センターである Space Weather Prediction Center が発表した以下のグラフは、太陽
周期と予想される時間軸をより詳しく示しています。




図 2:太陽周期の進行状況


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太陽活動が数年ごとにピークを迎えることが分かりましたが、GNSS などの通信システムにはどのよ
うな影響があるのでしょうか?


GNSS 受信機は地球を周回する衛星から発せられる信号によって位置を特定しています。これらの信
号は地球まで約 20,000km の距離を移動しますが、ここではほとんど問題は発生しません。信号の信
頼性低下や遅れは、地球の大気圏内、特に電離層(イオン圏)内での信号の屈折や回折によって起こ
るのです。荷電粒子と呼ばれる大気中に存在する電気を帯びた粒子が影響を及ぼします。


GNSS 受信機は、荷電粒子が均一に分布しているというような推測をもとに衛星信号への荷電粒子の
影響を考慮するのが一般的です。しかし、太陽活動の活発化は、電離層の電子密度に変動をもたらし、
受信機が想定するのとは異なる屈折や回折を生じさせます。


この現象はシンチレーションと呼ばれています。不規則な影響のため、標準的な GNSS 受信機では、
このような強いシンチレーション現象に対応できません。軽度のシンチレーションは数メートルのズ
レをもたらし、重度のシンチレーションは更に大きな誤差(サイクルスリップ)を引き起こし、最悪
の場合、完全に信号が失われることもあります。


我々が受ける相談も、まさにこの課題でした。このような課題は、今後数年は繰り返されると推測さ
れており、自律走行ロボットなどが用いる測位システムは、GNSS の精度低下に対応できるようなロ
バスト性の高いものでなければなりません。


では、太陽活動が GNSS に与える影響を軽減するにはどうしたらよいのでしょうか。



SLAM はどのように役立てるか?
GNSS 信号の信頼性低下を克服するための最初の選択肢としては、上記の課題に対してより堅牢で先
進的な GNSS システム[1]を探すことです。高度な受信機を持つシステムは、標準的な受信機では困
難な条件下でも信号の追跡を続けることができます。


しかし、根本的な対策を講じるのであれば、測位システムにお互いに依存しない複数のアプローチを
導入する必要があります。私たちは、GNSS 信号が利用できない場合の仕組みとしても機能する 3D
SLAM を GNSS と組み合わせて使用することを推奨しています[2]。


3D SLAM は、カメラ画像や 3D-Lidar の点群データがあれば、屋外環境でも正確に機能します。


採掘場、農地、駐車場などの広く開放的な空間では、3D-Lidar SLAM よりも Visual SLAM の方が
有効です。3D-Lidar SLAM では、センサの周りにある物体を一定以上検出する必要がありますが、
上記のような広い空間では検出できない可能性があります。一方、Visual SLAM は、そのような場




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所でも視覚的な特徴を使ってトラッキングを続けることができます。しかし、50m~100m の範囲に
物体がある場合や夜間においては、3D-Lidar SLAM の方が精度とロバスト性に優れています。


究極のソリューションは、カメラと 3D-Lidar を GNSS やその他のセンサと融合させることです。長
期的には、このソリューションは、様々なユースケースに対して信頼性が高く、堅牢で、正確な測位
システムの確保に役立ちます。


既存の GNSS ベースの測位システムでパフォーマンスに問題がある場合、今回ご紹介したような理
由が考えられますので、ぜひ Kudan にご連絡ください。このような障害による運用停止を回避し、
お客様の適用事例に必要な精度と性能を取り戻すべく、カスタマイズされた SLAM ベースのソリュ
ーションをご提案させていただきます。



参考文献

[1] Petovello, Mark & O’Driscoll, Cillian & Lachapelle, Gérard & Borio, Daniele & Murtaza, Hasan.
(2008). Architecture and Benefits of an Advanced GNSS Software Receiver. Positioning. 1. 66–78.
10.5081/jgps.7.2.156. [PDF]


[2] Gong, Zheng & Ying, Rendong & Fei, Wen & Qian, Jiuchao & Liu, Peilin. (2019). Tightly
Coupled Integration of GNSS and Vision SLAM Using 10-DoF Optimization on Manifold. IEEE
Sensors Journal. PP. 1–1. 10.1109/JSEN.2019.2935387. [PDF]





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