微粒子酸化亜鉛による高度細胞培養技術の開発-次世代農業技術につながるミネラルナノ粒子-

News Release
2020 年 12 月 9 日
各 位

堺化学工業株式会社


微粒子酸化亜鉛による高度細胞培養技術の開発
∼次世代農業技術につながるミネラルナノ粒子∼

大阪府立大学大学院理学系研究科の徳本勇人講師、同大学院工学研究科の齊藤丈靖教授、大阪府立大
学工業高等専門学校の倉橋健介准教授らのグループと堺化学工業株式会社(以下、堺化学)は、酸化亜
鉛ナノ粒子を利用し、低暴露量での投与により植物細胞の成長を促進させる手法を共同で開発しました。
植物の施設栽培では粉末無機塩類を溶解した溶液を供給するのが一般的ですが、流路における雑菌・藻
類の繁殖により無機塩類が浪費され、目的作物における無機塩類の吸収効率低下によるコストの上昇が
課題とされていました。今回、酸化亜鉛ナノ粒子に表面処理を施すことにより、少ない供給量で高濃度
のミネラル成分を細胞に運搬し、植物の成長促進を導きました。また今回の開発内容は、科学技術振興
機構(JST)の研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同「育成型」に
採択されました。


1.研究の背景
世界人口の増加により、食糧の安定的な確保と水資源の保全がますます重要となっています。そのよ
うな中、灌漑と比較して水効率が約 3 倍高いとされる循環型の水耕システムを利用した、植物工場の必
要性が高まっています。しかし植物工場は水道光熱費などの生産コストが高く、露地栽培の野菜と比較
すると価格競争において不利であるという課題がありました。

2.研究の内容
当研究では、植物の根や藻類に対して、粒子サイズが 35 nm※の酸化亜鉛ナノ粒子を投与することに
より、細胞増殖量とクロロフィル含有量が向上し、成長促進効果があることを見出しました。この効果
は、酸化チタンやシリカのナノ粒子では見られません。低溶解性の酸化亜鉛ナノ粒子が植物細胞に吸着
すると、その界面からミネラル成分である亜鉛イオンが徐々に放出され、植物細胞が効率よく吸収しま
す。これは、ナノ粒子の特長である凝集力を利用しています。ナノ粒子は粒子と粒子、あるいは粒子と
植物細胞との間に凝集力が働きます。この凝集力によって接近した酸化亜鉛ナノ粒子と植物細胞の間で
は、ミネラル成分を局所的にやり取りすることが可能であり、これが植物細胞の成長に影響したと考え
られます。

※ nm=ナノメートル;100 万分の 1 ミリメートル
3.期待される効果
植物工場における課題として、養液中に藻が多量に発生し、植物の成長を阻害することが挙げられま
す。これは、可溶性の無機塩類に由来するミネラル成分が、養液中に過剰に存在するためです。本研究
は、低溶解性の酸化亜鉛ナノ粒子の凝集力を活用して、植物細胞にミネラル成分を効率よく供給できる
ことから、植物の成長と藻の抑制の相乗効果により、植物工場の生産性向上と肥料の削減が期待されま
す。また、バイオオイルを産生する微細藻類の成長に対しても、酸化亜鉛ナノ粒子の有効性を確認して
おり、研究成果の拡大発展が期待されます。本研究をさらに加速することにより、SDGs の目標達成を
目指します。

4.今後の展開について
本研究で得られたミネラルナノ粒子による細胞培養技術は、植物工場にお
ける栽培作物の価値向上と低リスク化に貢献すると考えられます。また、ミ
ネラル成分を適切な場所に適切な量で届ける技術は、ドラッグデリバリーシ
ステムなどの分野への応用も期待されます。堺化学の祖業である酸化亜鉛
は、主に工業用途・化粧品用途で利用されますが、農業という新しい分野で
の展開を進めることで、SDGs の達成に貢献します。

5.本件に関するお問い合わせ先
ご取材については、電話またはメールにてお願いいたします。
堺化学工業株式会社 人事総務部総務課
Tel:072-223-4111 E-mail:soumu-inquiry@sakai-chem.co.jp

6.堺化学とは
私たちは、酸化亜鉛やバリウム、酸化チタンなどの白色顔料の追求から始まり、現在は電子材料や化
粧品材料、有機化学品や医療事業などを幅広く手掛ける化学会社です。「化学でやさしい未来づくり」
を胸に刻み、明るく幸せな社会づくりに貢献してまいります。
当社ホームページ:http://www.sakai-chem.co.jp/


以 上

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