3Dバイオプリンティング構造物内での微細藻類ユーグレナの細胞増殖を確認

2022 年 10 月 21 日

3D バイオプリンティング構造物内での
微細藻類ユーグレナの細胞増殖を確認
植物分野における 3D バイオプリンティングでの応用の可能性を見出す
株式会社ユーグレナ

株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲充)は、国立研究開発法人理化学研
究所、県立広島大学・生物資源科学部、長崎大学・情報データ科学部との共同研究において、3D バイオ
プリンティングのバイオインク材料として用いた微細藻類ユーグレナ(以下「ユーグレナ」)の細胞
が、3D プリンターで印刷した構造物内で増殖したことを確認しましたのでお知らせします。なお、本研
究論文は、3 次元画像コンファレンス 2022(http://www.3d-conf.org/)にて優秀論文に選出されまし
た。


■研究の背景と目的
産業界で広く普及している 3D プリントの技術は、生きている細胞を目的の構造(形)に印刷するこ
とができるため、生体材料を用いたバイオプリンティング※1 の分野で応用されており、近年では主に動
物細胞を用いた再生医療分野で研究が進んでいます。
一方、植物分野における 3D バイオプリンティングは、例えば穀物や果実等の植物の可食部など目的
の部位を印刷することで、植物の生育にかかる時間や場所などの効率化への応用が期待できますが、そ
の研究は動物分野における 3D バイオプリンティングと比較すると後発といえます。
3D バイオプリンティングのおおまかなステップは、
・適切なバイオインク※2 材料の探索(使用する細胞と、その細胞や 3D プリンターの条件等に適したゲ
ル)
・3D プリンターでの構造物の印刷
・印刷した構造物の培養(細胞の増殖)
があります。
3D バイオプリンティングのバイオインクに用いる細胞の条件として、一定数以上の細胞を使用するこ
とや、3D バイオプリンティングによる構造物内という特殊な環境下で培養することから、培養技術が確
立していることが有用条件となります。ユーグレナは培養技術が確立されているほか、動物細胞同様に
細胞壁を持たないため、植物細胞を培養する場合に必要となる植物体から細胞を単離する過程が不要で
す。
今回は 3D バイオプリンティングのバイオインク材料としてユーグレナが適していると仮定し、構造
物を印刷、細胞の増殖を検証しました。
※1 バイオプリンティング: 2D(2 次元)や 3D(3 次元)のプリンティング技術を利用し、細胞などの生体材料を用いて 2D や 3D の
構造を製造するプロセスのこと
※2 バイオインク:生きた細胞もしくは生きた細胞を含む液、ゲル



■研究の手法
①適切な 3D バイオプリンティングのバイオインク材料の探索
ポリマーなどのゲルと細胞を混合したものをバイオインクとして 3D バイオプリンティングで使用しま
す。本研究ではアルギン酸ナトリウム※3 をベースに、プリンティング時の構造強化を目的としたメチル
セルロース※4 などを加え、以下 2 種のバイオインクを作製しました。
A:3%アルギン酸ナトリウム溶液、9%メチルセルロースの濃度で溶解したゲルに、ユーグレナの細胞を
2×105 cell/ml 混ぜたもの
B:2%アルギン酸ナトリウム溶液、25%非イオン性の界面活性剤( Pluronic-F127)の濃度で溶解した
ゲルに、ユーグレナの細胞を 2×105 cell/ml 混ぜたもの
※2 アルギン酸ナトリウム:食物繊維のひとつで、昆布などの海藻類に多く含まれる、ねばねばした物質の成分
※3 メチルセルロース:セルロースのメチルエーテル誘導体。水に溶け乳化剤や安定剤や保水剤として使われる食品添加物



②3D バイオプリンティングで構造物を印刷
A とBの 2 種のバイオインクで 10mm×10mm の格子状の構造物を印刷し、100mM の塩化カルシウム
溶液で 10 分間ゲル化反応をさせました(図 1)。




図 1 ユーグレナの 3D バイオプリンティングイメージ


③3D プリンティングした構造物内の細胞を培養
3D バイオプリンティングにおいて、印刷から培養の工程においてユーグレナの細胞が生存可能か調べ
るため、ゲル化した各構造物を培地(pH3.5)に入れ、細胞の変化を観察しました。また、培養後 4 日
目、7 日目、10 日目の構造物を溶解し、細胞数の計測を行いました(図 2,3)。




図 2 バイオインク A の培養経過観察の様子
図 3 バイオインク B の培養経過観察の様子

④結果
バイオインク B の構造物では、培養 7 日目より細胞が白化するなどして、細胞の増殖が見られませんで
したが、バイオインク A の構造物では、良好な細胞増殖が確認されました(図 4)。また、培養 7 日目
におけるバイオインク A の細胞は、液体培地で培養した細胞と同様の細胞生存率でした。以上のことか
ら、3D バイオプリンティングにおいて、バイオインク A がユーグレナの細胞の培養に適切であること
がわかりました。




図 4 A,B それぞれの細胞数の比較


さらに、A のバイオインクで高さ 5mm の格子状の構造物も印刷し、100mM の塩化カルシウム溶液で
15 分間ゲル化反応をさせ、培地(pH3.5)で 7 日間培養したところ、構造物全体がユーグレナの細胞の
色である緑色に呈色しました。光学顕微鏡で構造物内を観察し、ユーグレナの細胞の増殖であることが
確認できたことから、より立体的な構造物内においてもユーグレナの細胞が培養可能であることが示さ
れました。


今回の検証結果から、植物分野における 3D バイオプリンティングの材料として、他の微細藻類など
さまざまな植物細胞への応用の可能性が期待できます。また、ヘルスケア分野やエネルギー分野での産
業利用が進んでおり、食料問題や気候変動の解決に貢献する素材として注目されているユーグレナの新
たな培養方法の開発や他分野での活用も期待できます。
当社は、持続可能な社会の実現のため、ユーグレナをはじめとする微細藻類等を活用し、ヘルスケア
事業やバイオ燃料事業、ソーシャルビジネスを行っています。今後も、社会課題解決に貢献する技術と
して微細藻類等の活用用途拡大を目指し、さまざまな培養方法などの研究を推進していきます。
<株式会社ユーグレナについて>
2005 年に世界で初めて微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養技術の確立に成功。微細藻類ユーグレ
ナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売のほか、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析
サービスの提供を行っています。また、2014 年よりバングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持
つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナ GENKI プログラム」を継続的に実施。「Sustainability
First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、事業を展開。
https://euglena.jp

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