ステークホルダーの皆様への手紙(FY2023)

ステークホルダーの皆様への手紙

FY 2023:インフレーションと企業の成長(2)




今年、日本では 5 月 8 日に新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の区分が 2 類から 5 類に変
更され、一定の区切りがついたと言えると思います。既に本年 3 月頃より急激な人流の回復が見ら
れ、初期においては京都等有名観光地に、そして徐々にその他の地域に広がりを見せているように感
じられます。

このような潮流により物流が改善されると共に、日本を除く各国では金利の上昇もあり、今後イン
フレーションに一定の安定化の予兆が見えるとの予想もありますが、世界のみならず日本においても
しばらくはこの環境は継続するでしょう。

事実、昨年のステークホルダーの皆様への手紙でも予想したように、日本においても特に水道光熱
費、食材費、建築費において、この 1 年で価格が急騰しましたが、それもまだ序章に過ぎないと思っ
ています。

インフレーションが弊社の成長に大きく影響を及ぼす可能性が更に高まったため、昨年同様のタイ
トルで、この手紙を書かせて頂き、弊社の対応についても言及したいと思います。

まず、水道光熱費は、特に電気代の高騰が顕著です。昨年の冬に急騰した後、2023 年 2 月以降は
補助金により一旦は緩和されましたが、あくまでもそれは 9 月までの限定措置であり、また、2023
年 4 月から各地域で高圧電力料金が上がり、6 月には弊社の主要な営業エリアである北海道、東北、
東京の各電力会社も低圧電力の値上げを行っています。原発が運転再開している九州電力や関西電力
と異なり、上記 3 社の値上げ幅は大きく、昨年の業績予想を遥かに超える費用の高騰となり、昨年度
の業績を大きく棄損する原因ともなりました。

次に食材費ですが、食材切替などの努力を行ってもなお 10%程度上がるという影響はありました
が、利用料等の値上げという形で一部利用者様にご負担頂きつつ、乗り切ったという印象です。
最後の建築費ですが、弊社は業界屈指の事業開発を行っていると自負しておりますが、一昨年に比
べ 5 割以上建築費が高騰し、計画に影響がないとは言えない水準にまでなってきました。

この様な環境において、持続的な成長のために我々は何ができるのでしょう。

第 1 には、財務的な手当です。今回中期経営計画のアップデート版を公表致しましたが、財務的に
借入金を実質的にこの数年で無くすというメッセージです。ご承知の通り、日本銀行は 2023 年 4 月
に約 10 年にわたる黒田体制から、経済学者としても著名であり、世界的人脈を持つ植田和男新総裁
の体制に移行しました。黒田体制の功罪はさておき、今後の金融政策の方向性に注目が集まる状況で
すが、日本はこの 10 年で、経済理論的には可能と言われたありとあらゆる政策を実際に実行しまし
た。量的緩和、質的緩和、マイナス金利、YCC(イールドカーブコントロール)等。しかし、その
結果、どの様な状況になったでしょうか。各国がインフレーションに対して金利を上げている中で、
日本は金利政策を大きく変更することができず、ETF を通じて多くの企業の実質的な筆頭株主とな
り、金融政策の禁じ手と言われるマネタイゼーション、つまり、国債の自己引受を実質的に行うよう
にまでなりました。

この状況がいつまでも続くわけがありません。現時点では国債の国内引受比率が 9 割を超えていま
すが、比率が下がり引受不調が起こった時、国債価格は暴落し、ハイパーインフレーションに繋がる
でしょう。その時に、日本国に対する最大の債権者である日本国民は、資産価格暴落というある意味
徳政令でつけを払うのです。数年でそのような状況になるとは言いませんが、この様な不安定な金融
環境ですので、一度、財務を堅固なものとしようと考えています。

第 2 に、価格転嫁です。日本では、値上げに対する消費者の抵抗がとても強いように思われます
が、人件費を含めこれだけ物価が高騰するなかで、企業努力だけでは持続可能性が棄損する水準にま
でなっています。逆に、企業努力で何割もの費用削減ができるのであれば、過去の経営の怠慢ではな
いのでしょうか。弊社グループは、出来るだけ安くて良いものをというコンセプトで事業を設計・開
発しており、価格対比のサービスの質では業界屈指と自負しておりますが、特に海外では、製品やサ
ービスの質を上げ、ブランド力を高め、価格に反映できるかどうかが企業の生命線として捉えられて
いる事例もあり、弊社グループとしても、経営改善を通じて少しでもコストを圧縮していくことは前
提として、物価上昇に伴う価格改定は行っていかねばならないと考えております。

第 3 には、生産性の向上です。この数年様々な開示資料において、DX(デジタルトランスフォー
メーション)について言及しておりますが、2023 年末には一定の導入が終了し、今後はデータの運
用を進めていくこととなります。ペーパーレス、押印レス、キャッシュレスが先行しましたが、これ
からは蓄積したデータを活かしていくフェーズに入ります。これにより、良い事例、悪い事例がスム
ーズに共有され、サービスの質や職場環境も改善されるでしょうし、採用や営業にも波及すると考え
ております。弊社グループは 70 歳以上の方も多く就業頂いており、一部には新システムの導入に苦
労を感じられた方もいましたが、慣れれば以前より効率が上がることを実感して、今では多くの方の
ご理解を得ていると認識しております。我々は制度上、就業時間に最低基準があり、生産性の向上に
事実上上限がありますが、現在厚生労働省でも生産性を加味した人員基準についても議論があると聞
いておりますので、いずれ規制改革が行われた時にその力が発揮できるよう準備を進めてまいりま
す。

第 4 には、人材採用の幅の拡大です。人件費の高騰は大きな経営上の論点になってきていますが、
我々は、高齢者、障がい者含む幅広い人材を積極的に受け入れる体制を整え、人件費そのものと採用
コストの高騰抑制を図っています。特に海外人材の雇用促進に注力しておりますが、特定技能制度
は、今年 2023 年 6 月の閣議決定で、12 分野 14 業種にまで受け入れ範囲の拡大が決定しました。実
は、特定技能外国人材は、日本人と同等の処遇ですので、短期的には人件費の高騰抑制にはつながり
ませんし、弊社では支度金などを支給していますので、むしろ初期コストは高くなります。しかし、
今後の実績次第ですが、より良い待遇は大前提として、その結果 5 年間という就業期間を全うしてく
れれば、人件費も採用コストも下がるはずです。常に社内ではメッセージを出していますが、高い人
件費やより良い処遇は、長期視点では安い人件費になると考えています。我々は、国内のみならず海
外からも働きたい会社ナンバーワンを目指します。

第 5 に、高利益率事業の創出です。日本では、長期にわたり金利が非常に低く、低採算事業でさえ
も存続できていました。しかし、これからはその様な状況が続くとは思えませんので、より高利益率
の事業の創出や拡大が必要だと考えております。日本の株式市場では、ターミナルやパーキンソン病
に特化した有料老人ホーム事業が高評価を受けていますが、我々は当然全施設でお看取りを行ってい
ることからターミナルの方も入居されています。そして認知症専門の介護施設であるグループホーム
においても大手ですので、パーキンソン病の方も多く入居されています。幅広い方の受入を標榜して
おりますので、特定の疾患や身体状況に特化した事業は行ってきませんでしたが、需要の高まりも含
め特定の疾患に注力した事業を立ち上げる準備を行っております。そして、高利益率事業でもあり、
我々の成長を促進する不動産投資事業、つまり REIT(Real Estate Investment Trust)等事業への
参画も準備しております。このように今後高利益率を達成するための事業創出を行ってまいります。

以上の様に、5 点を優先的な経営課題と認識し、成長促進に邁進してまいりたいと考えておりま
す。

前期の決算は、会計方法が変更されたとはいえ、営業赤字に陥り、株価も大きく下落するなど、ス
テークホルダーの皆様にはご心配をお掛けし、私自身も経営者として忸怩たる思いです。
ただ、弊社グループの事業は基本的に世界レベルでみても稀有な需要過多であることは間違いな
く、同時に寡占化も進んでいません。国内だけで数兆円という巨大なマーケットにおいて、今後 10
年程度の時間軸で、いずれかの会社がそのマーケットリーダーになるのです。既に創業から 12 年程
度経過しましたが、変わらず弊社グループはそうなれると信じて経営を行っております。

今後とも皆様のご期待に応えられるよう全力を尽くしてまいりますので、引き続きご支援ご鞭撻の
ほど宜しくお願いいたします。




株式会社リビングプラットフォーム

代表取締役 金子洋文

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