ステークホルダーの皆様への手紙

ステークホルダーの皆様への手紙

FY 2022:インフレーションと企業の成長




今年の 5 月下旬スイスのダボスにおいて「世界経済フォーラム」通称ダボス会議が催されました。
昨年は新型コロナウィルスの影響により中止となり、今年も例年の 1 月ではなく 5 月に延期しての
開催となりました。

その最大の論点の 1 つは、インフレーションについてだったと認識しております。インフレーショ
ンは、陽気な悪魔とも言われ、デフレーションよりは印象が良いイメージがありますが、悪魔には違
いなく、各国は、インフレファイトに注力しています。

現在のインフレ圧力は、米国では特に顕著ですが、米国のバイデン大統領が昨年の就任直後に膨大
な財政支出を決定した時点で、ある程度米国内では予想できていたはずです。しかし、米国連邦準備
理事会つまり FRB は、利上げに動きませんでした。FRB は、他国と異なり物価の安定のみならず、
2 つの責務(dual mandate)つまり雇用の最大化も課されているとはいえ、失業率も歴史的に低い
水準にある中においては、言い訳はきかないでしょう。

これが直近でパウエル議長が批判されている理由の 1 つにもなりますが、その後ロシアのウクライ
ナ侵攻があり、従前からの新型コロナウィルスの蔓延による生産活動や物流の停滞等も手伝い、イン
フレ懸念は現実のものとなり、もはや各国は景気を犠牲にしてでもインフレを抑制させるために、利
上げ等金融の引き締めに奔走しております。

しかし、各国政府及び中央銀行の努力にもかかわらず、このインフレ圧力は世界レベルで長期化す
ると共に、長らくデフレに慣れていた日本も直撃するでしょう。

それは、ウクライナ侵攻によって、地政学リスクが高まり、経済安全保障の観点から各国が自国で
優位性のある産業のみに注力できなることから、いわゆるイギリスの経済学者デイヴィッド・リカー
ドが提唱した比較優位の原則が機能しなくなることが大きな要因として考えられるでしょう。

また、軍事的安全保障の観点からも自立性(Self-Sustaining)を重視せざるを得なくなり、軍事
費への財政支出が産業育成への支出を圧迫する可能性も高いと考えております。
上記の様な要因により、我々は今まさに世界的な長期の構造的成長鈍化時代の入口にあるなかで、
企業はどの様な戦略を目指すべきか、そして弊社としてはどの様な経営方針を取るべきと考えている
かについて、今回の「ステークホルダーの皆様への手紙」ではお伝えしたいと思います。

まず、弊社の 2022 年 3 月期において、売上は昨年度の「ステークホルダーの皆様への手紙」で記
載させて頂きましたように、お約束した M&A の再始動という形で、新型コロナウィルスのパンデミ
ックの影響による自社開発の停滞を補い、前年度対比 27.3%という伸びをみせることができ、これも
お約束した年商 100 億円を大きく超過する水準まで成長することができました。

一方、各段階の利益については、特殊要因により大幅に伸びたものの、地力を見せつけるという段
階にはなく、ゆえに新たに昨年度公開させて頂きましたように、4 つの KPI を提示し、収益率とい
う観点からは、営業利益率と税引前当期純利益の中期ターゲットを示すと共に、決算説明資料の補足
として、その目標年度を 2025 年 3 月期と明示させて頂きました。今年度 2023 年 3 月期は、特に売
上と営業利益の伸張に注力してゆきたいと考えております。

今後、出来るだけ早いタイミングで、今期の業績予想と 3 年の中期経営計画を公開させて頂き、ど
の様に 2025 年 3 月期において KPI を達成するかについて、説明いたしたく考えておりますが、今
期の業績予想について、未だ公表を控えている理由の 1 つがインフレーションの進展の予測の難しさ
です。

弊社においては、水道光熱費、食材費、建築費の 3 点が、インフレの影響を大きく受ける部分だと
現時点では認識しておりますが、1 点目の水道光熱費は、元々夏場の影響は比較的限定的である一
方、弊社の営業地域に北海道を中心とした寒冷地があり、連結ベースで冬季の光熱費は夏季の約 2 倍
となるため、影響が大きくなります。

通常業績予想には、ある程度のバッファーを設けてありますが、2022 年前半の冬季だけでもかな
りの高騰がみられ、例年であれば、電力小売事業者のご協力も得ながら、電気代の抑制を図っており
ましたが、帝国データバンクが 2022 年 3 月 30 日に発表した「新電力会社」倒産動向調査による
と、2021 年度には電力小売事業者 14 社が倒産し、過去 1 年で累計 31 社が事業撤退とのことで、抑
制の施策が非常に限定化されてきております。

弊社においては、売上対比で 3-4%程度が水道光熱費であり、電気料金の値上げが東京電力では過
去 1 年間で 3 割とも言われる中で、特に電気料金に大きく影響を及ぼす原発政策の行方を含めたエ
ネルギー政策の方針が、7 月の参議院選挙後に提示されるのかどうかを見極めたいと考えておりま
す。

皆様もご存知の通り今回の参議院選挙後は衆議院の解散がなかりせば、約 3 年間選挙がない状況と
なり、国民に不人気の政策も決断できる環境が整います。東日本大震災の影響は確かに国民感情とし
ては大きいでしょう。しかし、財務省が 6 月 16 日に発表した 2022 年 5 月の貿易統計速報による
と、1979 年以降過去 2 番目の貿易収支の赤字であり、その 1 つの要因は、エネルギーの高騰となっ
ていることから、もはや物価の高騰を取るか、原発を取るかの議論にさえなっているのではないかと
考えております。

2 点目は食材費です。元々農林水産省の発表している 2019 年のカロリーベースでの日本の食料自
給率は 38%であるところ、ウクライナ侵攻によって、小麦等の穀物を中心とした生産及び輸出が停
滞し、更に足元の円安で輸入インフレが進んだことにより、今まで弊社内では食材の変更等によって
対応してきた食材費の高騰が、利用者様への転嫁を迫られる水準にまで達してきており、売上対比で
5%程度を占める食材費の動向を注視せざるを得ない状況となっております。

そして 3 点目は建築費です。建築価格は、木材を除いて昨年まではなんとか代替的な方策を検討す
ることにより、上昇を抑えつつ建築を進めて参りましたが、今年に入り弊社が主力とする重量鉄骨及
び鉄筋コンクリート構造の建築単価が、雑感ながら、年初に比べ 10%程度は高騰しております。

各事業の本社費を除く営業利益率は、公表資料の通り高水準となっておりますので、事業の構造を
大きく変えるものではないと現時点では認識しておりますが、家賃は売上対比で約 20%を占めるた
め、全体的な影響を継続的に配慮すべき環境になってきていると考えております。

以上の様な、インフレ圧力が顕在化するなかで、企業としてはどの様な戦略を取るべきなのでしょ
うか。

日本の労働生産性は、先進国の中ではとても低く、しかも改善の傾向があまり見られないことは世
界的にも有名な話ですが、インフレに対抗する手段は生産性を上げることに尽きると考えておりま
す。

我々は、ひたすら事業を拡大させ、規模の経済性を一層発揮できるよう、まずは売上 1,000 億円を
10 年程度で実現しようとしております。72 の法則というものがありますが、2 倍になるために何%
成長で何年かかるかをおおよそ示してくれる便利な法則です。弊社の目標とする KPI で提示した売
上成長率 20%を達成できる場合、4 年弱で 2 倍となります。そして、1 年の成長率を 26%にした場
合、10 年で規模が 10 倍となります。

また、今期上半期を目処に、4 月に刷新した教育制度を更に DX 等により進化させ、領収書、請求
書、契約書等の電子化も進め、業務効率を上げて参ります。

そして、このように生産性を上げることにより生み出される資金を職員の処遇改善に振り向けま
す。個人の観点からみると、元来インフレは賃金が同率で上がっていれば、実質賃金は同等であり恐
れるものではないのです。問題は企業が賃金を上げられるかにかかっております。企業は当然予算制
約があり、成長のための他の分野の投資も必要です。

しかし、生産性を上げれば両立が可能となります。
当社の事業分野である、介護、障がい者支援、そして保育事業は、公的資金を一部得て運営をして
おりますが、今後それらは削減されていくでしょう。しかし、その問題に対しても、生産性を上げる
という方策が有効のはずです。その為には、制度として必要とされる人員体制が、生産性の高低に関
わらず画一的に決められている、現在の報酬体系を改革する必要もありますが・・・

弊社の株価は、昨年の秋に大きく上昇した後、新興市場のトレンドにも押され、大きく下落致しま
した。しかし、膨大な需要が国内市場のみでもあるなかで、介護市場はまだ 20 年程度は拡大をし続
けます。また、国内で既にピークアウトしつつある保育市場も、アジアの周辺国も勘案すると、暫く
は伸長を続けます。

その様な環境の中で、着実に成長してゆけば、以前「ステークホルダーの皆様への手紙」において
言及させて頂いた IHH 社の双璧となる企業になれると信じて、弊社の経営を担わせて頂いておりま
すので、引き続きご支援ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。




株式会社リビングプラットフォーム

代表取締役 金子洋文

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