2次元的な配筋状態を非破壊で可視化 ?コンクリート埋設鉄筋の点検時間を従来比30分の1以下に短縮?

News Release
2023.7.3
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立大学法人大阪大学
協栄産業株式会社


2 次元的な配筋状態を非破壊で可視化
―コンクリート埋設鉄筋の点検時間を従来比 30 分の 1 以下に短縮―

NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」(以下、本事業)のマッチングサポー
トフェーズで、大阪大学産業科学研究所・千葉大地教授らの研究グループ(以下、研究グループ)
は、独自に開発してきた永久磁石法を発展させ、1回のスキャンでコンクリート構造物内部の鉄筋
の配筋状態を非破壊で可視化できる新たなセンサーモジュールを開発しました。これを搭載した2
次元スキャナーの試作機(以下、プロトタイプ)を用いて、コンクリート構造物の配筋状態を計測し
たところ、作業時間を従来比30分の1以下に短縮しました。
また、研究グループは協栄産業(株)と、本事業のマッチングサポートフェーズで開催した研究
シーズ紹介イベントを通じて産学連携に向けた協議を行ってきました。両者は7月から本事業の共
同研究フェーズで共同研究を開始し、今回開発した技術を用いた小型スキャナーの製品化を目
指します。これにより、点検業務の効率化を図るほか、コンクリート構造物の老朽化などによる事
故の発生を回避し、より安全・安心な社会の構築に貢献します。




図1 2次元スキャナーによる計測の様子
1.背景
コンクリート構造物に埋設された鉄筋を非破壊で検査するため、電磁波レーダー法 ※1 を用いたスキャ
ナーが広く普及しています。しかし、電磁波の反射時間はコンクリートの湿潤状態や内部の空洞の有無な
どに影響を受けるため、鉄筋の埋設の深さを正しく計測できないという課題がありました。
研究グループは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実施する本事業
のマッチングサポートフェーズ ※2 において、永久磁石と一対の磁気センサーを組み合わせたセンサーモ
ジュールを用いた永久磁石法※3の実証を進めてきました。永久磁石法は、電磁波レーダー法に比べてコン
クリートの湿潤状態や空洞の有無などの影響を受けにくい計測方法であり、鉄筋の埋設の深さや鉄筋径を
正確に計測できることも実証してきました。
また、電磁波レーダー法などの従来の方法では、センサーの位置を少しずつずらしながら1次元データの
スキャンを繰り返し、得られた結果をまとめて2次元画像として配筋状態を可視化していたため、計測に時
間を要することが大きな課題でした。このような背景の下、研究グループは、永久磁石法を用いて、コンク
リート構造物内部における鉄筋の配筋状態を1回のスキャンで2次元画像として取得できる技術※4の開発を
進めてきました。


2.今回の成果
(1)多対センサーモジュールの開発
研究グループは、永久磁石法を発展させ、多数の磁気センサーを集積配置することで、1回のスキャンで
配筋状態を2次元画像として可視化できる多対センサーモジュールを開発しました。多対センサーモジュー
ルは多数の磁気センサーが向かい合って整列した構造で、その近傍に棒状の永久磁石が配置されていま
す(図2)。




図2 多対センサーモジュール


(2)高速2次元スキャンの実証
多対センサーモジュールをロボシリンダーに搭載した2次元スキャナーのプロトタイプを用いて、コンク
リート中の配筋状態を2次元画像として取得できるか検証しました。永久磁石法にとって、コンクリートは空
気と同じであるため、鉄筋がコンクリートに埋設されているか否かは計測結果に影響しません。そこで、検
証では、コンクリートに埋設されていないシンプルな格子状の鉄筋サンプルを室内の実験室に準備し、その
手前でセンサーモジュールを搭載したロボシリンダーで自動スキャンしました(図3)。
その結果、縦方向約0.5m×横方向(スキャン方向)約1mの配筋状態に対応する2次元画像を約45秒で
取得することに成功しました。1次元データのスキャンを何度も取得し、そのデータをまとめて2次元画像と
する従来の方法に比べて、作業時間を30分の1以下に短縮することができました。
図3 (a)従来の計測手法と、(b)今回開発した2次元スキャナーによる計測の流れ


3.今後の予定
研究グループは、本事業のマッチングサポートフェーズで開催した「若手研究者の研究シーズ紹介イベ
ント」を通じて、協栄産業株式会社※6と産学連携の協議を行い、7月から本事業の共同研究フェーズ※5を活
用した研究開発の取り組みを開始しました。今後、研究グループと協栄産業(株)は、技術精度の向上に努
めるとともに、協栄産業(株)のエレクトロニクス業界で培ったハードウェア開発技術、ソフトウェア開発技術
を駆使し、1人の計測者でも取り扱い可能なサイズのスキャナーの製品化を目指します。これにより点検業
務の効率化を図るほか、コンクリート建造物の老朽化による事故の発生を回避し、より安全・安心な社会の
構築に貢献します。


【注釈】
※1 電磁波レーダー法
電磁波をコンクリート表面からコンクリート内に入射すると、コンクリート内部の鉄筋や非金属管、空洞などから電磁波が反射
することを利用した非破壊鉄筋探査手法です。反射した電磁波が戻るまでの時間から距離を算出できます。
※2 マッチングサポートフェーズ
事 業 名:官民による若手研究者発掘支援事業/マッチングサポートフェーズ/永久磁石と磁気センサを用いた新規非破
壊鉄筋計測システムの創出
事業期間:2021年度~2023年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100166.html
※3 永久磁石法
1個の永久磁石と2個(一対)の磁気センサーの組み合わせからなるセンサーモジュールを用いた非破壊鉄筋探査手法です
(今回の成果は、磁気センサーを多対構造にしています)。鉄筋に永久磁石を近づけると、永久磁石からの漏れ磁束を鉄筋が
吸い込む性質により、永久磁石周囲の磁界が変化します。この磁界の変化を磁気センサーで観測することにより、コンクリー
ト内に埋設された鉄筋の有無や埋設深さ、太さなどを測定する手法です。鉄筋が近づくことによる磁界の変化に違いが生じ
る位置に磁気センサーを二対配置しており、両者の出力の差分をとり、増幅することにより、高感度にシグナルを検出するこ
とが可能となります。
※4 1回のスキャンで2次元画像として取得できる技術
紹介動画:https://youtu.be/w254FoNVQ1E
※5 共同研究フェーズ
事 業 名:官民による若手研究者発掘支援事業/共同研究フェーズ/永久磁石と磁気センサを用いた新規非破
壊鉄筋計測システムの創出
事業期間:2023年度~2025年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100166.html
※6 東京都品川区 代表 平澤 潤
事業内容:販売(半導体、電子デバイス、産業機器、情報通信機器、環境対応製品、3Dプリンター、プリント配線板 など)
開発(ソフトウェア、アプリケーション、システムソリューション、エンベデッドシステム、ICデザイン など)
製造(プリント配線板、情報通信機器など)


4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新領域・ムーンショット部 担当:吉川、瀧山
TEL:044-520-5174
大阪大学 産業科学研究所 担当:千葉
TEL:06-6879-8410 E-mail:dchiba[*]sanken.osaka-u.ac.jp
協栄産業(株) ビジネスイノベーション室
TEL:03-4241-8848
担当:阿部 E-mail:abe.hirotaka[*]kyoei.co.jp
青栁 E-mail:aoyagi.harumi[*]kyoei.co.jp


(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本(信)、瀧川、黒川、橋本、根本
TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp


E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。


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