株主の皆さまへ (2023年度)

株主の皆さまへ (2023 年度)


本日、2022 年度 (2023 年 2 月期) の通期決算を発表致しました。本年度から株式会社
ロコンドの決算内容はもちろん事業構造やビジネスモデルも深く理解頂くため、年に 1
回、
「株主の皆さまへ」と題したレターを制作する事と致しました。


長文にはなりますが、株主の皆さまにあたってはぜひご一読頂けましたら幸いです。


2022 年度 (2023 年 2 月期) 決算


取扱高は修正計画値の 235 億円に対して 236 億円で着地しました。昨年対比で+11%の
増収はもちろん、修正計画値もクリアしたものの、+11%という成長率は 2022 年 10 月か
ら 2023 年 2 月までの 5 カ月間、Reebok Japan (RBKJ 株式会社) の M&A によって取扱高
が加算された事を踏まえると率直に申し上げて物足りない結果でした。


反面、2022 年度の営業利益は 9.9 億円で着地し、昨年値 (8.8 億円) も計画値 (9 億円)
も 10%以上、上回る事ができました。昨年度が倉庫投資 (拡張) の最終年で、賃料が
2021 年度と比べて 4 億円も上がった先行投資の年であった事を踏まえると、それらの投資
をしても 9.9 億円の営業利益を確保できた事は素直に評価すべきポイントかと思います。


要は「トップライン (取扱高) はもう少し、ボトムライン (営業利益) は良い評価」と
いうのが 2022 年度の評価です。


そして今年度、2023 年度 (2024 年 2 月期) に関しては「トップラインもボトムライン
も大幅増」を計画しています。事実、今年度の最初の月である 3 月はトップラインが大幅
増 (速報値ベース) という最高のスタートダッシュをする事ができました。


それでは 2023 年の話の前にまずは 2022 年度の総括から述べて行きたいと思います。


取扱高に関して


増収という結果ではあるものの、2022 年度の取扱高の成長率が当初計画よりも低い数値
で着地した要因は大きく 3 つあります。
取扱高が+11%で着地した理由、1つ目は 2020 年 4 月から始まったインフルエンサ
ー、主に YouTuber との D2C ブランド売上が年々下がった事です。
この企画自体はロコンドの売上、利益を押し上げただけでなく、主にインターネット界
隈におけるロコンドの知名度向上に大きく繋がったため、総じて素晴らしい結果だったと
言えます。しかしながら 2 年目、3 年目と時が経つにつれ、消費者 (視聴者) も徐々に販
売を控える傾向も強く、継続的な売上を見込むのは難しい企画でもありました。
その打開策として 2020 年の秋以降は 1 つのブランド、1 人の YouTuber に依存するので
はなくそのブランド数、人数を増やす事によって D2C ブランドポートフォリオを構築す
る事を企図しました。その結果、ReZARD 以外の D2C ブランドでも数千万円、時に 1 億
円以上の売上を作り上げる事はできたものの、それでも最初に大ヒットした ReZARD の
飽きをカバーする程の売上には至らず、結果的に D2C ブランド事業全体としての売上は
下がって行きました。


2 つ目の理由は、下期 (2022 年 9 月~2023 年 2 月) の EC モール全体の成長率が低かっ
た事にあります。
EC モール運営事業においては現在、自社モールと他社モール (楽天、Yahoo に出店)
の大きく 2 つがあり、自社モールにおいては主軸の LOCONDO.jp (F2 層: 35~49 歳女性
メインの靴の通販サイト) に加えて Fashion Walker (F1 層: 20~34 歳女性メインのアパレ
ルの通販サイト; 2020 年~)、SWS (サッカー専門サイト; 2021 年~)、waja (個人バイヤー
も出品する海外ブランドサイト; 2021 年~) の合計 4 サイトを運営しております。
このうち SWS はサッカーW 杯の影響もあって大きく売上を伸ばしたものの、他の 3 サ
イトは下期において苦戦しました。良く言えば「どこかのサイトが苦戦しても他のサイト
でカバーできる」ポートフォリオが組めていると評価できるものの、やはり主軸である
LOCONDO.jp を伸ばし続ける事は重要であると考えています。


LOCONDO.jp の下期苦戦理由は資源高や輸入費用高、円安等を背景とする商品価格の
高騰にあります。価格が上がってもそれをユーザーが受け入れてくれるのであれば価格増
はそのまま売上増に繋がりますが現実はそうはなりません。価格の高騰ないしは割引の抑
制は少なくとも短期的には売上ダウンに繋がりますし、また LOCONDO.jp の場合、そも
そも競合の通販サイトと比較しても平均商品単価が高い* ため、価格高騰のインパクトは
小さくなく、結果的に需要は抑制されてしまいました。
* LOCONDO.jp の平均アイテム単価は 5,709 円に対し、ZOZOTOWN は 4,438 円
(2022 年度第 3 四半期比較)


この商品単価 UP に伴う需要減は事前に予期されていたため、それをカバーすべく 2022
年秋からは久々の TVCM を関西エリアでテスト放映しました。2018 年にはデヴィ夫人が
登場する TVCM 積極投下で売上を大幅に伸ばし、2019 年にはその伸びが落ち着いたた
め、2019 年で一旦、終了としました。そこから 3 年経過したため久々の TVCM で売上が
伸びるかもしれない、という仮説のもとの検証でしたが、結果的に TVCM 再開による売
上効果は確認できなかったため、全国放映の計画はストップしました。しかしこれは
TVCM ではもう売上が伸びないと結論付けた訳ではなく、全国放映するならばクリエイテ
ィブないしはストーリーを変更する必要があると考えております。


3 つ目の理由は Reebok Japan (RBKJ 株式会社) の取扱高が M&A の当初想定よりも伸び
悩んだ事にあります。
これも 2 つ目の理由と関連しますが、当社が Reebok Japan を譲り受ける前、特に譲渡
が決まってから譲り受ける日までの数カ月間は「ブランドである以上安易なセールをする
べきではない」という我々の意図に反して大々的なセールが行われておりました。当社と
しては Reebok の長期的なブランド価値が何よりも重要と考えているため、10 月に
Reebok 事業を譲り受けてから即、大々的なセールを中止し、その反動で売上は伸び悩み
ました。


尚、当社の場合、買取在庫を販売した場合はお客様に支払って頂く商品価格=売上にな
りますが、委託商品の場合は出品企業様から頂く販売手数料=売上になります。
取扱高が+11%だったのに対し、売上が+6%とさらに低い成長率になった要因は、正に
上記の 1 つ目の要因「D2C ブランド売上 (買取在庫) の低下」に起因します。
このように売上は取扱高だけでなく買取委託割合に大きく影響されるため、当社として
は買取であっても委託であってもお客様に支払って頂く商品価格で計上する「取扱高」を
経営重要指標 (KPI) として見ております。


これら主に 3 つの要因を背景とし、2022 年度の取扱高は+11%という結果になりまし
た。しかしこれら3つの問題は既に解決の方向へ向かい、2023 年度に関してはボトムライ
ンだけでなくトップラインも大幅増を計画しているのは既述の通りです。


本当はもうここから 2023 年度のトップライン増の計画、そしてその証左にもなる 3 月
の速報値の話をしたくてうずうずしていますが、その前に 2022 年度の営業利益について
もその総括、そして背景含めて詳細を書かせて頂きます。


営業利益に関して


2022 年度の営業利益は昨年度と比べて+1 億円の増益で着地しました。


2022 年度は長期ビジョンである「取扱高 1000 億円」に向けた投資の年でもありまし
た。垂直型 EC モール企業 (楽天のように販売だけをするのではなく、amazon や ZOZO
同様、商品出荷や顧客対応等、全てのオペレーションを担う企業) の場合、成長の要にな
るのは倉庫になります。
従って倉庫への投資、主には倉庫を拡張し続ける事は、取扱高を伸ばし続けるためには
欠かせないものですが、取扱高が上がるにつれて倉庫面積を少しずつ増やして行くのは現
実的ではありません。近年は倉庫不足の環境もあって、空いている倉庫スペースが容易に
見つかるものではありませんし、拠点が散らばれば散らばる程、管理コストも上がるた
め、当社の現時点の見解としては、取扱高 1000 億円規模になるまでは 1 つの拠点で運営
できるのがベター、と考えております。


その見解に基づき、2019 年には以下の投資判断を致しました。


- 2020 年 4 月: 10,000 坪から 16,000 坪へ拡張 (LOCOPORT Ⅱ (一棟借) への移転)
- 2021 年 4 月: LOCOPORT Ⅱから徒歩圏内の LOCOPORT Ⅲも開始。但し、段階
的に借り上げる契約とし、2021 年 4 月からは LOCOPORT Ⅲを部分的にスタート
- 2022 年 6 月: LOCOPORT Ⅲ 全ての賃貸開始し (一等借) 合わせて 34,000 坪に


尚、ZOZO 社が取扱高 1000 億円規模の時点で「今後の 3000 億円以上の取扱高に対応
する」ために増床した、プロロジスパーク習志野 3 と習志野 4 の合計がおよそ 40,000 坪
になります。もちろん洋服メインの ZOZO 社と靴メインの当社では保管効率も異なるため
一概に比較はできませんが、LOCOPORT (Ⅱ + Ⅲ) の 34,000 坪という面積が如何に大
きく、取扱高 1000 億円に向けた先行投資の意味合いが大きい事もおわかりになるかと思
います。


2019 年当時は EC モール事業の伸長に加えて、当社がブランド様の物流業務を全て受託
するサービス「e-3PL」も大きく伸びていたため、3 年かけて倉庫面積を 3.4 倍に拡張する
判断をした訳ですが、これは非常に難しい経営判断でした。拡張しなければ成長は止ま
る、しかしながら拡張して取扱高が伸びなければ赤字転落もあり得る、という中での判断
でした。


倉庫拡張に伴って 2022 年度の賃料は 2021 年度と比べて年間、4 億円のコスト増になり
ました。そのような大きな投資の最終年で、かつ 2022 年度の取扱高成長率は+11%に留ま
ったにもかかわらず、増益という結果で着地できた事に関しては良い結果であったと考え
ております。


なぜ賃料が 4 億円も上がった中でも増益する事ができたのか。もちろんそこには賃料以
外のコスト削減、収益性改善の効果もあります。
例えば賃料以外のコストのうち倉庫関連費用で言えば、当社の場合、倉庫内の運営はも
ちろん、倉庫内の在庫管理システム「WMS (Warehouse Management System) 」も 100%
内製で開発・運営しているのが一つの特徴ですが、この徹底的な内製化ポリシーこそが
日々のカイゼンを容易にし、コストや品質面での競合優位性に繋がっています。
他にもコスト削減に繋がる領域においては自動レーンも積極的に導入し、そのソフトウ
ェアに関しても当社の WMS で多くを管理する事ができているため、自動化による収益性
改善といつでもオペレーションを変える事ができるフレキシビリティの両立が実現できて
います。


しかし 4 億円ものコスト増の中で増益が実現できたのはこれだけではありません。それ
は当社のビジネスモデル、特に EC モール事業から生まれたプラットフォーム (PF) 事業
にも大きく起因してきます。


プラットフォーム (PF) サービス


株式会社ロコンドの「各事業それぞれが競争優位、かつ事業間が相互補完的 (シナジー)
である」ビジネスモデルに関しては未だに 100%の理解を得られていない、と感じており
ます。多くの機関投資家様、株主様からは依然として「EC モール事業を運営しつつ、サ
ブ事業としてそこから派生したプラットフォーム事業 (B2B) やブランド事業も運営して
いる企業」程度に認識されてしまっている、と自覚しております。
もちろんこれは我々の不徳の致すところで、だからこそ本年度から本レターの筆を執る
事になった次第ですが、本パートに関しては歴史を辿りながらその本質を説明致します。


2011 年に LOCONDO.jp が始まった時、創業当時はほとんどの在庫を買い取って販売
していました。知名度も何もない新しい通販サイト、生まれたばかりのベンチャー企業に
在庫を預ける (=委託契約をする) ブランドは少なかった事がその理由になります。
この買取契約によって最低限の在庫を確保する事はできましたが、決して格安条件で買
い取れる訳でもなく、また全ての在庫を買い取るという事は大きな在庫リスクを担う事に
なるため、この「100%買い取る」という仕入方針はすぐに変更致しました。


2011 年下期からは原則、委託取引に切り替えた訳ですが、上記の通り、なかなか信用の
少ないベンチャー企業には多くの在庫は預けて頂けません。それでも新規開拓営業を続け
ている中、当時、大人気だった Samantha Thavasa 様から「LOCONDO.jp だけのために
在庫を預ける訳にはいかないが、今、他社に委託していて上手く行っていない公式自社
EC を新規開設、運営してくれるのであれば、その在庫を自社 EC だけでなく
LOCONDO.jp で販売してもらっても構わない」というオファーを頂き、サマンサタバサ
の公式自社 EC 運営、後の「BOEM (Brand’s Official E-commerce Management」がスタ
ートしました。
結果、この座組は大成功でした。LOCONDO.jp の IT・物流インフラを活用して始まっ
たサマンサタバサの自社 EC は、2012 年当時、業界最高水準の売上成長率を遂げる事がで
きました。またサマンサタバサ自社 EC だけでなく、自社 EC 在庫を共有する形で委託在
庫を LOCONDO.jp 内でも販売したところ、またたく間にサマンサタバサは
LOCONDO.jp 内でも売上 1 位のブランドになりました。


これをキッカケとして自社 EC 運営事業は「BOEM」として本格スタートした訳ですが
ここで重要なポイントは大きく 2 つあります。
1 つ目は、ロコンドは LOCONDO.jp の運営のために IT・物流インフラを内製開発・運
営していましたが、それを他のブランドのサービス運営に活用する事によって「価格優位
性(コスト競争力)だけでなく高品質な IT・物流サービスを提供できる」事を実証できた
事です。IT 開発会社、物流受託会社は国内に多々ありますが、当社は LOCONDO.jp を
運営し、そのインフラを共有・活用できるからこそ、彼らと比べて価格面でも品質面でも
競争優位にあります。
ブランド公式 EC は玉石混交で、商品が見つけにくい、検索もしにくい、注文もしにく
い、そして無事注文できても商品が届くまで時間がかかる、というサイトも少なくありま
せん。しかし BOEM の場合は EC を生業としている LOCONDO.jp と同じ IT インフラ、
同じ物流インフラで動いているからこそ、高品質を保証する事ができます。


2 つ目のポイントは我々が「在庫シェアリング」と呼んでいる、店舗間での在庫の共有
によって、ブランド様の自社 EC 売上だけでなく LOCONDO.jp 上での売上も上げられる
事にあります。
結果、当社にとっては自社 EC でも LOCONDO.jp でも売上を得られるという「2 度美
味しい」だけでなく、ブランド様にとっても 1 つの在庫を複数の店舗で販売する事によっ
て異なる顧客層にアプローチでき、さらには在庫回転率をも上げられる、正に win-win の
サービスでした。


この成功を契機とし、自社 EC 運営を BOEM として展開しただけでなく他のブランド
支援 (B2B) サービスも展開するに至りました。
2015 年にはアルペン様から「自社 EC を開発運営して欲しいものの自社 EC 用の在庫は
限られている。リアル店舗用の在庫は豊富にあるものの、これらを EC に回すわけにはい
かない。もし在庫を EC 倉庫に置きながら、それらを店舗で販売する事ができ、店舗で注
文を受けた翌日には店舗、又はお客様のご自宅に送る事ができるシステムさえ用意しても
らえれば、店舗在庫を EC 倉庫 (ロコンド倉庫) に置いても構わない」というオーダーを
頂き、店舗で EC 在庫数をリアルタイムで確認し、店舗に在庫が無くともお客様に販売
し、倉庫から即出荷する事ができるシステム「LOCOCHOC」が誕生しました。
こちらも LOCONDO.jp の IT・物流インフラを活用して開発したため、開発期間は驚
異の 2 週間、初期コストはアルペン様だけでなく全てのブランド様向けに「0 円」で提供
できる、に至りました。
同年、イタリアの高級スニーカーブランド RUCOLINE 様から「全ての在庫をロコンド
に預けるから百貨店店舗や路面店、他の EC への出荷も行って欲しい」というオーダーを
頂き、ココで「e-3PL」が始まりました。RUCOLINE 様からすると物流コストを圧倒的に
削減できただけでなく(原則、入庫費用や保管費用をロコンドは請求しないため)、土日
出荷や当日出荷も対応できるようになったため、大きな価値を生む事ができました。
そして 2017 年には事業譲受を受けたスペイン発のファストファッション「MANGO」
の店舗運営のため、LOCONDO.jp の IT インフラを活用して開発した店舗 POS
「LOCOPOS」をローンチし、店舗の在庫もリアルタイムでデータ共有し、EC で販売で
きるようになりました。
更には 2021 年、fitfit 様からの「基幹システムは高額になりがちなため、基幹システム
もロコンドのシステムで完結させて欲しい」というオーダーに基づき、初期費用無料の基
幹システム「LoCORE」も誕生しました。LoCORE は EC、店舗、卸のすべての商品情
報、販売情報などを一元的に把握できることから、店舗在庫だけでなく卸在庫をも全てリ
アルタイムに一元管理、同時販売する事が可能になっただけでなく、これによって IT・物
流を全て一括してロコンドグループで受託する事が可能になりました。


現在、多くのファッションブランドにおいて EC 比率の向上、そして業務フローのデジ
タル化 (DX; Digital Transformation) は最重要課題の 1 つとなっております。しかしなが
らファッションブランドが技術力のある CTO やエンジニアを採用するのは容易ではあり
ません。外部のシステム開発会社にほぼお任せの形で委託した結果、膨大なコストを請求
される事や何年かけても目指す姿になかなか辿り着かない事、時にはプロジェクトが途中
で頓挫する、なんて事も珍しくありません。
この全てのニーズを満たす事ができるのが当社のプラットフォームサービスなのです。
当社がこのようなブランド様のために EC サイトを開発運営するだけでなく、物流も全て
デジタル化、迅速化する (e-3PL)、店舗の運営も全てデジタル化し (LOCOCHOC、
LOCOPOS)、卸の運営も他の業務も全てデジタル化する (LoCORE)。そして業務フロー
のデジタル化に留まらず、そのデジタル化されたデータを使って「在庫の一元化」をも実
現し、欠品ロスの抑制や在庫回転率の向上まで実現する事は正に多くのブランド様のニー
ズに合致していると言えます。


これらプラットフォームサービスは現時点でも多くのブランド様に導入頂いていて、そ
して新たなブランド様からも随時、検討頂いておりますが、このプラットフォームサービ
スをロコンドグループとして更に活用できる素晴らしい出会いがありました。それが 2022
年 10 月、Reebok Japan との出会いです。


ブランド事業


Reebok Japan の話に入る前に時計の針を少し戻し、ロコンドグループにおけるブランド
事業の経緯についても書かせて頂きます。
ロコンドグループが初めてブランド運営に乗り出したのは 2017 年の MANGO Japan の
事業譲受でした。
MANGO はスペインにおいては ZARA と双璧をなすファストファッションブランドで
あるため「在庫をもっと預けて頂ければ売上がもっと上がるのに…」という想いがありま
した。その想いを MANGO Japan だけでなく本社にも伝えたところ、日本国内運営を直営
からフランチャイズへ切り替えたいという MANGO 本社の想いと合致し、ロコンドグル
ープが独占フランチャイジーに任命されました。


そしてこのブランド事業が大きく変わるのが 2020 年 4 月、YouTuber とのコラボレーシ
ョンです。
MANGO を事業譲受した翌年、婦人靴卸の三鈴商事 (2018 年) も買収しましたが、三
鈴商事の自社ブランドはどれもブランドとしては脆弱でした。しかしそのデザイン、開
発、生産スキルは高かったため、それらを活用してロコンドのプライベートブランド
(Viola & Emma) が誕生し、大ヒットとは言えないもののある程度の売上と利益を確保で
きるブランドまでに成長しました。


「どうすればグループで開発生産した素晴らしい商品を爆発的に売る事ができるのか?」
と考えていた矢先、コロナ (COVID-19) の蔓延と共に外出自粛が始まって、靴の需要が
大きく落ちる事態に陥りました。
そのタイミングで大ヒットしたのが、YouTuber との D2C ブランド開発コラボレーショ
ン、ReZARD の開発販売プロジェクトです。良い商品を開発生産する体制が整った中、そ
れをどう消費者に伝えて行くかを模索していた矢先、トライアルとして着手した
YouTuber ヒカルとの ReZARD シューズ開発プロジェクトが大ヒット。生まれて間もない
ブランドの、たった 1 つのデザインの靴が 10 万足を売り上げるという、靴業界において
も前代未聞の大ヒットになりました。
大ヒットの最大の理由は YouTube 上での企画、ストーリーでしたが、ReZARD のコン
セプトが「高品質なものを安く」だった中、当社が三鈴商事の生産背景を駆使して開発し
た本革のスニーカーがそのコンセプトに合致した事も大ヒットの理由として挙げられま
す。内製で作らなければこのコストパフォーマンスは実現できませんでした。
ReZARD のシューズは LOCONDO.jp のみで限定販売したため、LOCONDO.jp の売
上、利益を大きく伸ばしただけでなく、当時、我々がリーチしきれていなかった YouTube
視聴者層 (2018 年から TVCM を積極投資し TV 視聴者層にはリーチしていたものの、TV
を見ない層にはリーチできていなかった) へもリーチする事ができました。


Reebok


そしてこの D2C 事業の売上がひと段落していた中、2022 年春、伊藤忠商事様から
「Reebok Japan に興味はないか?」と打診を頂きました。ブランドを売る場としての EC
モールは持っている、ブランドを運営するための IT・物流インフラは整っている、ブラン
ドマーケティングのノウハウも獲得している、そんなタイミングで絶好の話でした。


Reebok の強みはそのブランド価値と商品ラインナップにあります。絶頂期と比べると
売上は大きく落としたものの、Reebok の認知度はロコンドを遥かに凌ぎます。ロコンド
を知らない日本国民はまだ少なくありませんが、Reebok を知らない国民は少数派です。
そして何よりも Reebok と言えば INSTAPUMP FURY。1994 年に誕生した画期的なデ
ザインは今も多くの消費者に愛されています。
Reebok は不思議なブランドでした。多くのブランドは売上の低迷に伴って「ダサいブ
ランド、終わったブランド」とみなされて行きます。しかし Reebok にはそのイメージは
全くありませんでした。むしろカッコいいイメージは今でもあります。それでも不思議と
しばらく Reebok の商品を買った事も無ければ手に取った事もない。その意味では、手に
取るキッカケさえあればもっと伸ばす事ができる、無限の可能性を持つブランドでした。


Reebok の PMI (Post Merger Integration: 買収後の統合作業) にあたっては全ての IT・
物流インフラをロコンドのプラットフォームサービスに置き換える事から始まりました。
既にロコンドグループ内にはプラットフォームは整っていたため、PMI に要した期間は異
例の 3 カ月間という超短期での統合作業でしたが、結果、Reebok Japan (RBKJ 株式会社)
にとっては大きなコスト削減ができただけでなく、これらのコストの支払い先は全てロコ
ンドであるため、ロコンドグループ全体という目線では、多くの外注コストを内製化する
事ができました。


前置きが長くなりましたが、これこそが 2022 年度、家賃が年間 4 億円も増額し、取扱
高の成長率が決して高くなかったにもかかわらず、増益を実現できた理由になります。
ロコンドにはブランド運営するためのあらゆるプラットフォーム (インフラ) が整って
いるため、ロコンドグループに参画しインフラを置き換えたタイミングで「大きな外注コ
ストの内製化」が実現できるため、それが即、グループ利益の増加に繋がるのです。
しかし Reebok の取扱高は 2022 年度に伸び悩んだのではないか?短期的にコスト削減が
できたとしても中長期的に成長させられなければ意味が無いのではないか?そう考える方
もいるかと思います。事実、2022 年 10 月からは割引率抑制の結果、取扱高は低調な水準
で推移したのは既述の通りです。
しかしロコンドのプラットフォームサービスに置き換わった Reebok は着実に成長し、
また D2C ブランドで得たノウハウを活用して始まったジャニーズ事務所の人気アイドル
「SixTONES」のアンバサダー就任プロジェクトがその波を後押しし、RBKJ 全体の 3 月
売上は昨年対比で+22%、直営店事業に至っては+155%という大幅な成長率を実現する事
ができました。また BOEM を利用する公式サイトだけでなく、LOCONDO.jp における
Reebok の 3 月売上も+120%と大きく伸びる等、EC 事業⇔Platform 事業⇔ブランド事業
間でのシナジーを確たるものとしています。なお卸事業に関しては注文から出荷までの期
間が半年以上かかるため、効果が出て来るのは 2023 年秋冬以降、本格化してくるのは
2024 年春夏以降になります。
要は、ロコンドのプラットフォームと運営ノウハウによってコスト削減だけでなくトッ
プラインの成長も促進できる、その確かな手応えを感じている次第です。


2023 年度計画


D2C ブランドのノウハウを活用して生まれた Reebok コラボレーションプロジェクトは
大きな成功を収める事ができました。
しかしこれはまだ序の口に過ぎません。SixTONES プロジェクトはまだ始まったばかり
ですし、SixTONES 以外にも様々なインフルエンサー、アーティストとのコラボレーショ
ンの企画は進んでいます。またブランドとのコラボレーション企画も着々と進んでいます
し、スポーツ領域でもダンスのプロリーグ「D リーグ」の Valuence Infinities のスポンサ
ーも開始し、他にもスポーツ選手のスポンサー、コラボレーション企画が進んでいます。
正にいま Reebok はそのスポーツとストリートファッションという 2 つの領域においてそ
の可能性を解放した (Unleash) と強く感じています。


また 2022 年度、特に下期は苦戦した EC モール事業、特に LOCONDO.jp は値上げ影
響も一巡し、また 22 年度中に進めた様々なシステム改修によってユーザーやショップに
とっての利便性が更に向上し、LOCONDO.jp の取扱高は 2 月が+15%、3 月が+17% (速
報値ベース) と成長路線に戻って来ております。


さらに 2023 年度以降にあたっては、2022 年度中に倉庫の拡張が完了した事も 2023 年
度の計画においては非常に大きなポイントになります。
固定費の多くを占める倉庫賃料が当面は正に固定化されるため、限界利益 (売上から変
動費用を除いた利益) がそのまま営業利益に直結する、高収益体質を見込める段階に入り
ました。単純に言えばロコンドグループの限界利益率の基準値は「16%」としていますが
固定費が増えない限りは、取扱高が 100 億円増加すれば営業利益が 16 億円増加する収益
体質が確立されたという事になります。


その中、2023 年度の計画値 (連結) は以下の通りです。限界利益率(取扱高 (相殺前)
比)は 17.4 – 18.8%、固定費用は 39 億円を見込んでいます。


- 取扱高 (親子間の相殺前): 300 億円 – 325 億円 (昨年対比: +23% – 33%)
- 売上: 140 億円 (+33%)
- 営業利益: 17.5 億円 (+76%)
- 経常利益: 17.5 億円 (+81%)
- 当期純利益: 14 億円 (+11%)


取扱高に関しては親会社 (ロコンド)、子会社 (RBKJ)、それぞれの取扱高に連動して限
界利益が発生するため (例えば Reebok が LOCONDO.jp で売れた場合、ロコンドは限界
利益を得られる事は当然ながら RBKJ も限界利益を得られる)、親子間の相殺前の取扱高を
重要指標 (KPI) として設定し、本数値を 2023 年度には 300 億円~325 億円へ引き上げる
事を計画します。また既述の通り、2023 年度以降は高収益体質を確立できたことから営業
利益は+76%という数値を計画しております。


最後に「企業価値 (時価総額) 」という面では、上記計画を実現する事ができた場合、
売上成長率や営業利益額の水準が上記の数値よりも低い EC 企業が時価総額 200~300 億
円、中には 500 億円という事実を踏まえれば、この計画が順調に進捗した場合、300 億円
~500 億円という時価総額水準は現実的なラインと考えます。
本レターを書いている時点での当社の時価総額がおよそ 125 億円 (2023 年 4 月 4 日終
値) という事を踏まえると 300 億円~500 億円という数字は大きなジャンプにも映ります
が、上記の計画を実現する事ができればそれは決して過大評価ではありません。


しかしこの実現においては上記の計画実現に加えて、継続的な IR 活動や株主還元など
も重要な要素になって来ます。本日、その具体策の一つとして最大 40 万株 (発行済株式
数の 3.6%相当) の自己株買いを発表致しました。
尚、銀行からの借入は未だにゼロなので (Reebok の買収にあたっての伊藤忠商事からの
借入金 6.46 億円を除く) 成長投資枠はじゅうぶんに担保されています。
最後に


わたしは 20 代を McKinsey & Company の経営コンサルタントとして過ごし、様々な企
業の戦略策定のサポートをして来ましたが、株式会社ロコンドの 12 年間を振り返ると当
社の今の立ち位置、ビジネスモデルは決して長期的な戦略的洞察に基づいて生まれたもの
ではありません。
プラットフォームサービスはどれも具体的な顧客ニーズから生まれたものですし、ブラ
ンド事業、特にインフルエンサーのコラボレーションは偶発的に誕生したものです。そし
て Reebok との出会いも決して長年狙っていたものではなく最適なタイミングで頂いた最
高のお話でした。
ロコンドグループが今後、どのような事業を展開して行くか。もちろん想像できる範囲
での戦略的な分析や財務シミュレーションは常々行っておりますが、最終的な判断は「こ
れをやっておけば将来的に何かに繋がる (Connect the dot) 可能性がある」という要素も
重要視しています。


そのため 2030 年度には「取扱高 1000 億円、営業利益 100 億円」という長期ビジョンに
は変わりはありませんが、その時、株式会社ロコンドがどうなっているか、その時の事業
内容、事業ポートフォリオはもしかしたら現在の想定から変わっているかもしれません。
ただ一つ確実に言える事があるとすれば、今回の Reebok Japan の PMI 成功を背景とし
「ブランドの M&A がロコンドグループの成長ドライバーになる」可能性が高い、という
事は言えると思います。
Reebok Japan 自体もまだまだ伸びしろはありますが、ここまで完全な PMI プラットフ
ォームが整っているロコンドグループにおいては更なる機会を求めるべきだと考えており
ます。


その中、これから参画するブランドによっては株式会社ロコンドという社名がブランド
イメージとのマッチングの観点で障害にもなり得ると考え、この度、創業時の社名である
「ジェイドグループ株式会社」に社名変更します。


ジェイドが意味する翡翠の石言葉「繁栄」を目指し、生涯、繁栄し続けられる企業グル
ープを目指します。


株式会社ロコンド
(新社名: ジェイドグループ株式会社)
代表取締役社長
田中 裕輔

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