遺伝子改変モデルマウスを用いた中枢神経系非臨床試験受託サービス開始のお知らせ

2017 年8月1日
各 位
会 社 名 株式会社トランスジェニック
代表者名 代表取締役社長 福 永 健 司
(コード番号 2342 東証マザーズ)
問合せ先 取 締 役 船 橋 泰
( 電 話 番 号 03-6693-9571)


遺伝子改変モデルマウスを用いた中枢神経系非臨床試験受託サービス開始のお知らせ


当社グループは、遺伝子改変モデルマウスを用いた中枢神経系非臨床試験受託サービスを開始いたし
ますのでお知らせいたします。

【概 要】
当社は創業以来、遺伝子改変マウス作製を基幹事業とし、それに関わるマウス作製、系統保存、増産
のサービス、各種モデルマウス販売のサービスを提供してきました。また、グループ会社の新薬リサー
チセンターは豊富な経験とノウハウを活かし、GLP 適合施設での非臨床試験及び GCP に対応した生物学
的同等試験等の食品臨床試験受託サービスを提供しています。
このような両社の特色を活かして協業で、アルツハイマー病、認知症、精神・神経疾患について、そ
れぞれ特色をもつ病態モデルマウスを用いた各種行動試験により、中枢神経系の薬効を評価いたします。


<モデルマウス>
Mutation
系統名
Construct Promoter
アルツハイマー病 APPosk-Tg Human APP E693Δ Mouse prion promoter
認知症 SJLB Human N279K TAU Mouse prion promoter
精神・神経疾患 proBDNF-KI Mutant proBDNF (endogenous)


※組織学的、生化学的解析も可能です。試験内容はご相談ください。


以上
◆ご参考
アルツハイマー病モデル
アルツハイマー病は認知機能低下を主な症状とする進行性の神経変性疾患で、その特徴的な脳内病理変
化として、アミロイド β (Aβ)の不溶性凝集体の蓄積である老人斑の形成、タウタンパク質の不溶性
凝集体の蓄積である神経原線維変化 (neurofibrillary tangle、NFT) の形成、脳萎縮が知られていま
す。
アルツハイマー病の発症機序を説明するものとして、下記のようなアミロイド仮説が知られています。
1. Aβ が自己凝集によって可溶性凝集体(Aβ オリゴマー)や不溶性凝集体(Aβ フィブリル)を形成
する。
2. Aβ 凝集体がタウタンパク質の過剰なリン酸化と自己凝集を誘導し、異常な凝集タウである NFT を
形成する。
3. NFT が神経細胞死を誘導する。
4. 脳萎縮が進行し、認知障害が生じ、アルツハイマー病を呈する。




初期のアミロイド仮説においては老人斑中の不溶性凝集体である Aβ フィブリルによる神経細胞死によ
って認知機能低下が引き起こされていると考えられていました。その後、細胞死誘導に必要な Aβ 濃度
が生体内の条件に比べて高すぎること、アルツハイマー病患者の疾患重篤度が脳内の Aβ フィブリルの
量とは相関していないことから、Aβ フィブリル以外のものが毒性を持っている可能性が示唆されまし
た。そして、生理的な濃度でシナプス機能の障害を引き起こす Aβ オリゴマーが病態の発症に重要では
ないかと考える「オリゴマー仮説」が提唱されました。しかし、アルツハイマー病患者の脳内には Aβ
オリゴマーと同様に Aβ フィブリルも存在することから、どちらがアルツハイマー病発症に寄与してい
るのかを検証するかは難しい問題でした。


大阪市立大学の富山貴美先生、森啓先生らのグループは、2008 年に家族性アルツハイマー病の新しい遺
伝子変異を報告しました(1)。Osaka 変異と名付けられたこの遺伝子変異は、アミロイド前駆体タンパク
質(amyloid precursor protein; APP)における1アミノ酸の欠失型変異でした(APPOSK; E693Δ)。
APPOSK から産生される Aβ は 1 アミノ酸を欠失した変異型 Aβ(E22Δ)となり、Aβ フィブリルを形成
せず、Aβ オリゴマーを非常に多く形成するという特徴を有していました。Osaka 変異を持つアルツハ
イマー病患者の脳には老人斑が検出されず、この発見によって、Aβ オリゴマーのみでアルツハイマー
病が発症することが初めて証明されました。
APPOSK 変異タンパク質をマウス脳内で発現するトランスジェニックマウスが APPOSK-Tg マウスです(2)。
APPOSK-Tg マウスでは、加齢に伴って脳内に Aβ オリゴマーの蓄積が検出されますが、24 ヵ月齢におい
ても老人斑は全く見られません。しかしこのマウスでは、シナプス消失、タウの異常リン酸化、グリア
細胞の活性化、神経細胞死といった多くのアルツハイマー病の病理が見られます。このことから、
APPOSK-Tg マウスは、Aβ オリゴマーがアルツハイマー病理を引き起こすオリゴマー仮説を支持するモデ
ルであるとともに、 オリゴマーによるアルツハイマー発症の病態とそれをターゲットとする治療法、

創薬の研究に役立つものと考えられます(3)。


APPosk Tg マウス




◆APPOSK マウスの記憶評価及び Aβオリゴマー免疫染色
<水迷路試験>
(当社取得データ)
使用動物: C57BL/6 マウス(n = 6)
、10 か月齢
APPOSK マウス (n = 8) 9~10 か月齢




**
**
50 *
逃避潜時(sec)















測定期間(day)
A: C57BL/6 B: APPosk


平均値±標準誤差を表す
* p<0.0、** p<0.01、C57BL/6 群と比較して t 検定で有意差あり
<β-amyloid oligomer 染色(NU-1 抗体を用いた免疫染色)>
Non-Transgenic マウス




APPosk トランスジェニックマウス




<文献>
(1) Tomiyama T., Nagata T., Shimada H., Teraoka R., Fukushima A., Kanemitsu H., Takuma H., Kuwano R., Imagawa

M., Ataka S., Wada Y., Yoshioka E., Nishizaki T., Watanabe Y., Mori H. A new amyloid β variant favoring

oligomerization in Alzheimer's-type dementia. Ann. Neurol. 63, 377-387 (2008).

(2) Tomiyama, T., Matsuyama, S., Iso, H., Umeda, T., Takuma, H., Ohnishi, K., Ishibashi, K., Teraoka, R., Sakama,

N., Yamashita, T., Nishitsuji, K., Ito, K., Shimada, H., Lambert, M.P., Klein, W.L. and Mori, H. A mouse model

of amyloid β oligomers: Their contribution to synaptic alteration, abnormal Tau phosphorylation, glial

activation, and neuronal loss in vivo. J. Neurosci. 30, 4845-4856 (2010).

(3) Umeda T., Ono K., Sakai A., Yamashita M., Mizuguchi M, Klein W.L., Yamada M., Mori H., Tomiyama T. Rifampicin
is a candidate preventive medicine against amyloid β and tau oligomers. Brain 139, 1568-1586 (2016).



<特許>

■特許第 4776544 号「変異型アミロイドタンパク質」
認知症モデルマウス
認知症にはアルツハイマー病以外にも様々なものが知られているが、そのうち「第 17 染色体遺伝子に
連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭葉認知症 (Frontotemporal dementia and parkinsonism
linked to chromosome 17; FTDP-17)」は常染色体優勢で遺伝することが知られる疾患です。FTDP-17 は
運動障害並びに認知機能障害が通常 40~60 歳で発症し、一定年数の間で深刻な認知症に進展すること
が知られています。FTDP-17 はタウタンパク質の異常によるものであることが知られています。タウタ
ンパク質の異常蓄積は神経死に直接関連していると考えられており、アルツハイマー病の原因とも考え
られています。FTDP-17 においてタウタンパク質における遺伝子変異は複数報告されていますが、その
一つが point mutation でアミノ酸置換が起こる N279K 変異です。
この N279K 変異を持つタウタンパク質をマウスの脳内で発現させたのが SJLB マウスです。このマウス
では空間学習、恐怖の学習能力が低下しており、認知障害のモデル動物として、タウをターゲットとし
た認知症の治療法、創薬の研究に役立つものと考えられます。


<文献>
Taniguchi, T., Doe, N., Matsuyama, S., Kitamura, Y., Mori, H., Saito, N. and Tanaka, C. Transgenic mice expressing

mutant (N279K) human tau show mutation dependent cognitive deficits without neurofibllary tangle formation. FEBS

letters 579, 5704-5712 (2005).



<特許>
■JP2011043428A「非ヒトモデル動物を用いたパーキンソン症候群の検査方法」
精神・疾患モデルマウス
神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子 (BDNF: brain-derived neurotrophic factor)は、うつ
病をはじめとした様々な精神・神経疾患に関与するものとして近年注目されています。BDNF は脳内にお
ける神経回路網の形成や発達、さらにその生存に重要であることまた、シナプスの可塑性にも関与し記
憶や学習の形成において重要な役割を果たしていることが示されてきています。BDNF は前駆体である
proBDNF からプロテアーゼによって切断され、成熟型の BDNF (mature BDNF)が生成されます。matureBDNF
はチロシンキナーゼ受容体 (TrkB) に結合し、細胞生存、細胞分化、シナプス形成などを誘導しますが、
proBDNF は p75NTR 受容体へ結合し、アポトーシス、神経突起伸長抑制などをもたらします。




このことから、産業技術総合研究所の小島正巳先生らは、proBDNF から matureBDNF へのプロセッシング
障害および分泌障害が、精神・神経疾患に関与するのではないかと考え、proBDNF から BDNF へのプロセ
ッシングを抑制する変異を導入したノックインマウスを作製しました。その結果、proBDNF がプロセッ
シングされないこのマウスは、足のもつれや歩行中に転倒するなどの特徴的な行動異常、オープンフィ
ールドにおける活動量の増大、テールサスペンジョンテストによる無動時間の長期化などが見られまし
た。このことから、本マウスはうつ病をはじめとする精神・神経疾患モデルマウスとして、治療法の開
発や創薬に貢献できるものと考えられます。
<文献>
Mizui, T., Ishikawa, Y., Kumonogoh, H. and Kojima, M. Neurobiological actions by three distinct subtypes of

brain-derived neurotrophic factor: Multi-ligand model of growth factor signaling. Phamacol. Res. 105, 93-98

(2016 review).

Mizui, T., Ishikawa, Y., Kumanogoh, H., Lume, M., Matsumoto, T., Hara, T., Yamawaki, S., Takahashi, M., Shiosaka,

S., Itami, C., Uegaki, K., Saarma, M. and Kojima, M. BDNF pro-peptide actions facilitate hippocampal LTD and

are altered by the common BDNF polymorphism Val66Met. Pro. Nat. Aca. Sci. 112, E3067-3074 (2015).

Koshimizu, H., Hazama, S., Hara, T., Ogura, A. and Kojima, M. Distinct signaling pathways of precursor BDNF

and mature BDNF in cultured cerebellar granule neurons. Neurosci. Letters 473, 229-232 (2010).

Koshimizu, H., Kiyosue, K., Hara, T., Hazama, S., Suzuki, S., Uegaki, K., Nagappan, G., Zaitsev, E., Hirokawa,

T., Tatsu, T., Ogura, A., Lu, B. and Kojima, M. Multiple functions of precursor BDNF to CNS neurons: negative

regulation of neurite growth, spine formation and cell survival. Mol. Brain 2,



<特許>
■特許第 5414012 号 「変異 BDNF 遺伝子導入ノックインマウス」

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