メタル型スキャナを用いた測距センサを開発:優れた耐久性と大面積検知を実現

技術情報リリース
2016 年 12 月 21 日
船井電機株式会社
国立研究開発法人 産業技術総合研究所


メタル型光スキャナを用いた測距センサを開発:優れた耐久性と大面積検知を実現
- 大面積ディスプレイ、デジタルサイネージ用タッチパネルや人感検知センサに適用可能-



船井電機株式会社(本社:大阪府大東市、代表取締役社長:前田哲宏、以下「船井電機」
)は、国
立研究開発法人 産業技術総合研究所(所在地:茨城県つくば市、理事長:中鉢良治、以下「産総研」

エレクトロニクス・製造領域 先進コーティング技術研究センター(研究センター長:明渡純)が開発
した光走査素子
(以下
「メタルミラー」をもとに大面積走査用の測距センサを試作開発いたしました。



産総研では、十数年前よりエアロゾルデポジション法(AD 法)と呼ばれる独自のセラミックスコ
ーティング技術で圧電膜駆動による光走査素子の研究に取り組んできました。その中で産総研独自の
ラム波共鳴駆動原理※とメタルベース構造※を考案し、光学素子の性能向上とコスト低減とが可能で
あることを発表しました(2010 年 2 月 9 日 産総研プレスリリース「プロジェクションディスプレー
などの心臓部である光走査素子を新たに開発-25 kHz 以上の高速走査と 100 度以上の広い走査角度
を同時に実現-」。



光走査素子は、レーザや LED などの光を走査(スキャン)させるデバイスで、レーザプリンタや
プロジェクタなどの製品に幅広く利用されていますが、MEMS ミラー※やポリゴンミラー※といっ
た従来の光走査素子は性能面・コスト面で制約があります。一方、産総研が独自に考案したラム波共
鳴圧電駆動方式※のメタルミラーは、低コストで高速な走査速度と広い走査角度の両立を実現させ、
これまでの技術課題を解決する光走査素子です。


船井電機は、本メタルミラー方式の光走査素子について産総研から技術移転を受けて実用化開発を
進め、このたび、それを応用した測距センサの試作品を開発いたしました。この試作品は、メタルミ
ラーの特性を活かし、低コストで従来にない約 4 ㎡ の大面積の広角検知が行える TOF(Time of
Flight)方式※の測距センサです。


本測距センサに用いた光走査素子の試作品は、2010 年 2 月 9 日 産総研プレスリリース時の限界と
されていた 10mm 角を超える 20mm×25mm のミラー反射面積を持ち、当時安定動作の下限とされ
ていた周波数である 100 Hz を大きく下回る 15 Hz で共振動作するメタルミラーで、TOF 方式に必要
な受光感度を確保いたしました。また、実用化上の課題として残っていた環境温度変動に影響されな
いミラーの安定動作についても、独自の構造設計と制御方式により広い温度範囲で実製品に適用可能
な 1%以下の変動幅を実現いたしました。


今後は、本試作品をもとに検証を行い、光走査素子としてのメタルミラーの信頼性向上、また、そ


の応用デバイスの性能および信頼性向上を図るとともに、市場・業界からの声を反映させ、より有益・
有効な光走査素子、応用デバイスに仕上げていく所存です。


なお、本試作品は、2017 年 1 月 5 日から 8 日にかけて開催される「CES2017」
(米国ネバダ州・ラ
スベガス)で、1個の測距センサで全画面をカバーする後付けタッチパネル、および人感検知用とし
て大型ディスプレイに搭載し、デジタルサイネージでの利用を想定したデモンストレーションを行う
予定です。


【大面積検知センサのポイント】
今回開発した第 1 世代の試作品(測距センサ)は、TOF による測距方式を採用しており、赤外線レ
ーザ光をパルス照射し、対象物に反射して戻ってくるまでの飛行時間(パルスの位相差)から距離を
計測しています。通常、広範囲の距離情報を得るには強度変調したレーザ光をスキャンし、反射光か
ら変調を感度良く検出する必要があります。広角走査のメタルミラーを用いることで大角度の走査を
行い、大きなサイズのミラーでより遠い物体からの反射光を検出することによって大面積の検知を実
現しました。


【メタルミラーの特長】
・ 高速・広角走査:走査速度 15Hz~25kHz、振れ角 140 度(シリコンベースの MEMS ミラーは
60 度以下)
・ ミラー面積の大型化が可能(シリコンベースの MEMS 対比)
・ 低消費電力
・ 高耐衝撃性:
シリコンベースの MEMS ミラーは外部衝撃に対して脆いが、メタルミラーは金属バネ鋼材
なので高強度
・ 高信頼性・高耐久性:
6 年以上の連続耐久試験(産総研)ならびに 10^7 回(1000 万回)以上のねじれ動作試験(船
井電機)を実施
・ 低コスト:シリコンベースの MEMS ミラーとの比較では、材料単価も製造コストも低減





図 1. 光走査素子の比較
メタルミラー MEMS ミラー ポリゴンミラー

素材 金属バネ鋼材 シリコン (主に)アルミ

走査角度 ○ × ○

走査速度 ○ ○ ×

製造コスト ○ × ×

耐衝撃性 ○ × ×



【メタルミラー応用での技術的ポイント】
・ 従来の光走査素子が抱える性能面での技術的課題を解決します
・ 様々な用途に対して MEMS ミラーでは適わなかった多様で幅広い仕様展開を可能とします
周波数 15 Hz(ミラーサイズ:20mm×25mm)~25kHz(同 1.2 mm×4mm)
、振れ角 140
度を、船井電機が試作したメタルミラーで確認済みです
・ レーザプリンタや携帯型プロジェクタ、測距センサ(LiDAR)など、コンパクトで、高画質・
高精度が求められる製品の実現に適しています




図 2. 測距センサのセンシングイメージ





図 3. 測距センサのデジタルサイネージ応用イメージ


今回開発した試作品の主な仕様は以下のとおりです。測距性能については今後、TOF 回路の変更に
より高精度化、高速化が可能であり、アプリケーションの幅を広げていく予定です。


 測距方式 : TOF(Time of Flight)
 光源 : 赤外線レーザ(クラス 1)
 測距範囲 : 0~2m(最大)
 検知角(画角) : 90°
 測距精度 : ±60mm ⇒ ±6mm を達成可能
 応答時間 : 500ms ⇒ 50 ms を達成可能
 電源 : 5V(USB 給電)
 サイズ : 146(W)x114(D)x61(H)mm


【用語の説明】
※ラム波共鳴駆動原理
ラム波(板波)とは、平板中を伝播するガイド波の一種であり、振動方向が薄板に垂直で、なお
かつ伝播方向に同じ振動成分を持ちながら伝播する波である。振動の違いで A0 モード(ゼロ次
の非対称モードラム波)と S0 モード(ゼロ次の対称モードラム波)の 2 種類のモードがある。
本メタルミラーは A0 モードを利用しており、板波の節(板波の中で動かないところ)が、反射
ミラーを支持するヒンジの付け根近傍とほぼ一致するようにラム波を発生させることで、高効率
にヒンジのねじれ運動を誘起することができる。





※メタルベース構造
これまでに実用化されている大半の光走査素子(MEMS ミラー)の構造は、シリコンを主材料
として製造されたシリコンベース構造であることに対し、金属を主材料として製造された構造を
メタルベース構造と呼ぶ。


※MEMS ミラー
MEMS(micro electro mechanical system)とは、微細加工技術を利用して、機械部品と電子回
路を融合したデバイスの総称。MEMS ミラーは単結晶シリコン上に光を走査するための反射ミ
ラーと駆動部を形成し、反射ミラーを支えるヒンジをねじり運動させることにより光を走査する
デバイスである。共振現象を利用することで、ミラーの走査角を増大することができる。レーザ
ープロジェクタやヘッドアップディスプレイ、測距センサなどに使われる。最大光学振れ角は
60°以下である。


※ポリゴンミラー
高速回転するモータを利用して、多面鏡を回転運動させることにより光を走査するデバイスであ
る。レーザプリンタやコピー機などに使われる。


※ラム波共鳴電圧駆動方式
本メタルミラーで採用している方式である。金属材料で形成した光走査素子のフレーム部に駆動
源となる圧電体を搭載し、圧電体の曲げ振動モードでラム波(板波)を発生させることで、ラム
波共鳴駆動原理を利用する方式である。ミラー部のねじれ共振系と圧電体を離れた位置に配置し
たラム波共鳴構造をとることで、非常に高い駆動効率でねじれ共振を発生させることができる。



※TOF(Time of Flight)方式
光学的な測距方式の一種である。測距センサの光源から送光したパルス光が、測定対象物から反
射され、センサの受光素子で受光されるまでの飛行時間を測定することで、距離を求める方式で
ある。



【本件に関するお問い合わせ先】
船井電機株式会社 開発技術部 TEL:072-870-4488 E-mail: rdinquiry@funai.co.jp
産業技術総合研究所 企画本部 報道室 TEL:029-862-6216 E-mail:press-ml@aist.go.jp


以上

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