平田機工R&D:メタボローム解析技術による植物由来の機能性二次代謝産物の代謝経路探索の成果報告のお知らせ

2021 年2月 16 日

各 位
会 社 名 平 田 機 工 株 式 会 社
代 表 者 名 代表取締役社長 平田 雄一郎
(コード番号:6258)
問 合 せ 先 常務執行役員
管理本部長 藤本 靖博
(電話 096-272-5558)
(URL https://www.hirata.co.jp)



平田機工R&D:メタボローム解析技術による

植物由来の機能性二次代謝産物の代謝経路探索の成果報告のお知らせ※

平田機工・研究開発本部(R&D)では、生物資源(主に植物資源)を活用したヘルスケア産業への事
業化を見据えた新規事業計画を遂行しております。平田機工・R&D では、液体クロマトグラフィー連結
型質量分析装置(LCMS)を用いて、植物資源由来の機能性成分を網羅的に検出する分析機器及び包括的
なデータ処理と統計解析などを行うメタボローム解析技術(1)が重要であると認識しています。今回、
LCMS メタボローム解析技術を従来のターゲット分析とは全く異なる視点から活用した応用例(従来の分
析とは出口が異なる研究成果)として、植物由来の機能性二次代謝産物の代謝経路の探索の成果報告(3
例)が得られましたので、情報提供いたします。



I. LCMS メタボローム解析の網羅的分析技術及び安定同位体酸素投与(18O2)による安定同位体元素の
標識化による微量分析技術の融合により、モデルコケ植物(ヒメツリガネコケ) からフラボノイド(総
称) の一種であるルテオリン(フラボン)の検出に初めて成功しました(図 1)。ルテオリンは、抗
(2)

炎症作用と尿酸値の抑制が期待される機能性成分です。本成果は、LCMS メタボローム解析が、多
くの研究実績のある植物から既知成分の発見を可能にした実例です。




図1 モデルコケ植物(ヒメツリガネコケ)からルテオリン(フラボン)の検出


以上の研究成果は、以下の論文掲載で学術研究成果(詳細データ)を報告しました。また、 (公財)
かずさ DNA 研究所の HP でも一般向けに公開されています。
論文のタイトル:Metabolome analysis using multiple data mining approaches suggests
luteolin biosynthesis in Physcomitrella patens


著者:Yasuhide Hiraga, Takeshi Ara, Yoshiki Nagashima, Norimoto Shimada, Nozomu
Sakurai, Hideyuki Suzuki, Kota Kera
掲載誌:Plant Biotechnology 37, 377–381 (2020)
DOI: 10.5511/plantbiotechnology.20.0525b
かずさ DNA 研究所の研究開発ニュース(2021/1/18)
https://www.kazusa.or.jp/news/210118_2/

II. モデルマメ科植物 (ミヤコグサ)の組織間比較の LCMS メタボローム解析の網羅的分析技術により、
花弁の色素(黄色)の本体であるフラボノイド(総称) 2)の一種であるゴシペチン(フラボノール)



の 3 位の配糖体の同定を行い、成分の組織間の局在性に注目して、EST データマイニング手法 (3)に
よるミヤコグサの花弁の黄色の色素に関する遺伝子の単離と機能解析まで、成果を応用展開とする事
に成功しました(図 2)。組織間比較のメタボローム解析結果により機能性成分(黄色のフラボノール)
の生合成経路に関与する遺伝子の同定も可能である、興味ある研究成果が得られました。この遺伝子
を利用すれば、様々な色の花弁をもった観賞用の植物が作れるかもしれません。本成果は、LCMS メ
タボローム解析が、機能性成分の代謝経路に関する遺伝子単離へと導く、生合成経路の予測を可能に
した実例です。




図 2 モデルマメ科植物(ミヤコグサ)からゴシペチン(フラボノール)の 3 位の配糖体の生合成経路の予測と
生合成遺伝子(フラビン依存型 8 位の水酸化酵素遺伝子)の単離


以上の研究成果は、以下の論文掲載で学術研究成果(詳細データ)を報告しました。また、 (公財)
かずさ DNA 研究所の HP でも一般向けに公開されています。
論文のタイトル:Identification of a flavin monooxygenase-like flavonoid 8-hydroxylase with
gossypetin synthase activity from Lotus japonicus.
著者:Yasuhide Hiraga, Norimoto Shimada, Yoshiki Nagashima, Kunihiro Suda, Tina
Kanamori, Kanako Ishiguro, Yuka Sato, Hideki Hirakawa, Shusei Sato, Tomoyoshi Akashi,
Yoshikazu Tanaka, Daisaku Ohta, Koh Aoki, Daisuke Shibata, Hideyuki Suzuki, Kota Kera
掲載誌:Plant & Cell Physiology, in press 2021
DOI:10.1093/pcp/pcaa171
かずさ DNA 研究所の研究開発ニュース(2021/1/18)
https://www.kazusa.or.jp/news/210118_3/

III. 2019 年頃から、東京都八王子市にある工学院大学との機能性果実の共同研究を開始しました。そして、
今回、日本国内において、野菜として生産されている未熟パパイヤ(青パパイヤ)の利用価値を高め
るために、LCMS メタボローム解析技術を用いて青パパイヤの機能性食品としての可能性を検討し
ました。青パパイヤは、果物として親しまれている完熟パパイヤと比較して、心血管への作用が報告
されているアルカロイド (窒素を含む化合物) 4)の一種である各種カルパイン誘導体が多く含まれて



いることが示唆されました(図 3)。また、その機能性成分は特に、 調理過程で廃棄されている果皮(未
熟及び完熟)に果肉より多く含まれていることが示唆されました。これらの成果は、各種カルパイン
誘導体には、代謝経路を示唆可能な中間体も検出され、生合成経路の予測や新たな機能性成分の発見
にも繋がると考えています。 さらに、 今回、青パパイヤ果実を利用しやすい乾燥粉末に加工した後も、
食品加工で使用されるタンパク質分解酵素活性(5)や、 マカ(6)の機能性成分であるベンジルグルコシ


ノレート(7)、抗酸化作用のあるポリフェノール(8)が検出されることを明らかにしました。また、通
常廃棄される茎、根の利用方法についても LCMS メタボローム解析技術にて検討したところ、茎と
根はベンジルグルコシノレートの原材料として利用可能なことが示唆されました(図 4)。本成果は、
LCMS メタボローム解析が、廃棄処理される食品の新たな利用価値を高める発見を可能にした実例
です。




図3 未熟パパイヤ(果実、写真上)から各種カルパイン誘導体の検出及び根(写真下)からベンジルグルコシ
ノレートの検出

以上の研究成果は、以下の論文掲載で学術研究成果(詳細データ)を報告しました。また、 (公財)
かずさDNA研究所のHPでも一般向けに公開されています。
論文のタイトル:Metabolic analysis of unripe papaya (Carica papaya L.) to promote its
utilization as a functional food
著者:Yasuhide Hiraga, Takeshi Ara, Nao Sato, Nayumi Akimoto, Kenjiro Sugiyama,
Hideyuki Suzuki, Kota Kera
掲載誌:Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, in press 2021
DOI: 10.1093/bbb/zbab014
かずさDNA研究所の研究開発ニュース(2021/1/30)
https://www.kazusa.or.jp/news/210130/

平田機工・R&Dはこれまでに、インドネシア農業研究開発庁(Indonesian Agency for Agricultural
Research and Development : IAARD)およびアルゼンチン国立農牧技術院(Instituto Nacional de
Tecnología Agropecuaria:INTA)と、機能性食品、化粧品、トイレタリー、医薬品開発のための植物
遺伝資源の探索・利用のための契約を締結しております(図4)。膨大な島嶼を有しており、広大な経度を
網羅し、独特な生物資源を保有するインドネシア共和国(9)と幅広い緯度を網羅し、多様な気候と土壌に
富み多種多様な生物資源を保有するアルゼンチン共和国(10)に注視して、共同研究開発の交渉を続けてき
ました。2カ国の稀有な植物資源は、バイオプロスペクティング(有用生物資源探査)に最適であり、今
回、論文公開した植物由来の機能性二次代謝産物の代謝経路の探索の成果報告(3例)で用いたLCMSメ
タボローム解析技術が平田機工・R&Dの基盤技術になることは言うまでもありません。これらメタボロ
ーム解析技術が、新しい機能性食品素材、化粧品素材、トイレタリー素材、および医薬品など、世界市場
で受け入れられる先進的かつ革新的な製品の開発を加速すると確信しています。





図4 アルゼンチン共和国(左)及びインドネシア共和国(右)の簡易地図



用語説明
(1)メタボローム解析技術とは、生体に含まれる代謝物全体を分析し、解析処理を行う技術。ここでは、ノンターゲッ
トに生体成分の網羅的な解析を行う手法を示す。
(2)フラボノイド(flavonoid)とは、天然に存在する有機化合物群で、クマル酸CoAとマロニルCoAが重合してで
きるカルコンから派生する植物二次代謝物の総称である。いわゆるポリフェノールと呼ばれる植物成分である。抗
酸化作用などを示す事が知られている。
(3) ESTデータマイニング手法とは、expressed sequence tag(略称: EST)データベースの構築、すなわち、
生体からRNAを抽出し、 蛋白質の翻訳に必要なmRNAから逆転写酵素により、 cDNA complementary DNA、

相補的DNA)ライブラリーを合成し、cDNA配列の片側の一部を塩基配列決定(DNAシークエンシング)した
短い断片(遺伝子発現を配列タグ)の配列情報を蓄積したデータベースを作成し、自動的に配列情報パターンを発
見する分析手法である。
(4)アルカロイドとは、窒素原子を含み、ほとんどの場合塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称である。多くのア
ルカロイドは他の生物に対して有毒であるが、しばしば薬理作用を示すので、医薬品として使用される事が多い。
(5)タンパク質分解酵素とは、 プロテアーゼ (protease)とも呼ばれ、 タンパク質をより小さなポリペプチドや単一の
アミノ酸への分解を触媒する (速度を上げる) 加水分解酵素の総称である。青パパイヤには、肉を柔らかくするパ
パイン(papain)と呼ばれるプロテアーゼが含まれている。
(6)マカとは、南米ペルーに植生するアブラナ科の多年生植物である。英名はMaca、学名はLepidium meyeniiで
ある。現地ではマカを「アンデスの人参」と呼び滋養食として、根は薬用ハーブとして使われている。
(7)ベンジルグルコシノレートとは、芳香族グルコシノレート (英: glucosinolates)の一種である。抗疲労及び抗
肥満の機能があると報告されている。グルコシノレートは、カラシナやキャベツ、ワサビなどの辛味をもつアブラ
ナ目の多くに含まれる機能性成分であり、抗酸化活性と抗ガン作用が報告されている。また、ベンジルグルコシノ
レートは窒素原子を含むので、 アルカロイドとしても分類可能であるため、 他の新規の生理活性が調査されている。
(8)ポリフェノールとは、ほとんどの植物に含有されている。たくさんの(ポリ)フェノールという意味で、分子内に
複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を持つ植物
成分の総称である。ほとんどの植物に含有されている、ラジカル消去作用を有し、抗酸化作用など多数の生理機能
が報告されている。
(9)インドネシア共和国は東南アジアの南部に位置し、約13,400の大小の島々によって構成されています。赤道に跨る
熱帯気候地域(乾季と雨季)にあり、メガダイバシティ(豊かな生物資源)の一つに数えられる。
(10)アルゼンチンは北部の熱帯地域からパタゴニアの寒冷地、アンデスの高冷地など多様な気候に恵まれた遺伝資源
の宝庫で、新たな植物資源の探索地域の一つに数えられる。



※記載している情報は、発表日時点のものです。現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありま
すので、あらかじめご了承、ご注意をお願いいたします。
※本件が、当期の連結業績に与える影響はありません。

以 上





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