「昆布の食物繊維の分別分析」に関する研究報告 昆布に含まれる多量の粘り成分が分析を困難にする

2017 年 3 月 16 日

神戸市中央区港島中町 6-13-4 フジッコ株式会社 東証第一部コード番号 2908


日本農芸化学会 2017 年度大会 『昆布の食物繊維の分別分析』に関する研究報告
昆布に含まれる多量の粘り成分が分析を困難にする
- 大妻女子大学 青江誠一郎教授との共同研究 –


食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維に分類され、それぞれ異なる
生理作用を持つことが報告されています。文部科学省による七訂日本標準食品成分表には、各食品につい
て食物繊維総量に加え、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の含量について収載されています。しかしなが
ら、昆布を含む「藻類」においては、総量のみの記載に留まっており、その理由は不溶性と水溶性の分別分
析が難しいためとされています。


このたび、フジッコ株式会社(代表取締役社長 福井正一)は、大妻女子大学 家政学部教授の青江誠一
郎先生との共同研究により、昆布における不溶性/水溶性食物繊維の分別分析に関して、昆布特有の粘性
多糖の挙動が測定に大きな影響を与えることを明らかにしました。


公定法に準じて分別分析の詳細な検討を行ったところ、分析中に非常に強い粘りが生じるために、ろ過分
別が困難になることを確認しました。さらに、この現象には、昆布に大量に含まれる特有の粘性多糖の溶出
挙動が関わっていることを突き止めました。昆布で不溶性/水溶性食物繊維の分別分析が出来ないのは、昆
布に食物繊維が多量に含まれており、その大部分が特有の粘性多糖であることが影響していると考えられ
ました。


一般に粘性多糖は、胃から小腸への食物の移動に関係し、種々の栄養素や食品成分の吸収を調節する
ことで、血糖やコレステロールの上昇を抑制する働きを持つことが報告されています。一方、昆布には、血圧
上昇抑制効果などが報告されているアルギン酸、免疫賦活作用などが報告されているフコイダン、腸内発酵
性などが報告されているラミナランなどの特異的な性質を持つ多糖の存在が知られています。昆布の食物
繊維を評価する上では、不溶性/水溶性食物繊維の評価に加えて、アルギン酸、フコイダン、ラミナランとい
った昆布特有の機能性多糖を個別に評価することが重要です。


■発表学会情報
学会名: 日本農芸化学会 2017 年度京都大会(会期:2017 年 3 月 17 日~3 月 20 日)
場所: 京都女子大学
発表日時: 3 月 19 日(日)15 時 40 分
タイトル: コンブ類における不溶性および水溶性食物繊維の分別分析
講演番号: 3A06p07




■発表の詳細
【目的】
食物繊維分析の公定法である Prosky 法に準じた昆布食物繊維の分別分析において、リン酸バッファーと
MES-TRIS バッファーを使用した場合の比較を行った。
【試料と方法】
試料は、北海道産マコンブ、ガゴメコンブ、ナガコンブを用いた。乾燥粉末化した昆布試料を、リン酸バッフ
ァーあるいは MES-TRIS バッファーの各溶液に懸濁させ、Prosky 法に準じた方法にて以下の試験を行った。
<試験1>バッファーの違いによるろ過(不溶性/水溶性食物繊維の分離工程)のし易さを比較した。
<試験2>不溶性/水溶性食物繊維量を測定した。さらに、不溶性/水溶性食物繊維中に含まれる多糖(ラミナ
ラン、フコイダン、アルギン酸)の測定を行った。
【結果】
<試験1> MES-TRIS バッファー使用時には、いずれのコンブでもろ過は可能であったが、リン酸バッファー使
用時には粘りが強くなり、いずれのコンブでもろ過し切きることができなかった。
<試験2> 各バッファー使用時における原藻中の不溶性/水溶性食物繊維量を比較したところ、MES-TRIS バ
ッファー使用時には、いずれのコンブも不溶性食物繊維が水溶性食物繊維の 2.5 倍以上多く測定さ
れた。一方、リン酸バッファー使用時において、強制的に全ろ液を回収し測定したところ、結果は反
転し、水溶性食物繊維が不溶性食物繊維の 1.5 倍以上多く測定された(図1)。続いて、その要因を
調べるため、不溶性/水溶性食物繊維中に含まれる多糖を調べたところ、ラミナランとフコイダンは
いずれのバッファーにおいても水溶性食物繊維に検出された。一方、多糖の大部分を占めるアル
ギン酸は、MES-TRIS バッファー使用時には、原藻中のアルギン酸の約 80%が不溶性食物繊維に
検出されたのに対し、リン酸バッファーでは約 90%が水溶性食物繊維に検出された。
以上より、コンブ類の食物繊維は、測定で用いるバッファー(リン酸とナトリウムの量が異なる)により不溶
性/水溶性食物繊維の定量値が大きく変化し、その要因はアルギン酸の挙動によるものと考えられた。


g/100g 原藻乾重量




不溶性

水溶性




MES-TRISバッファー リン酸バッファー

図1.バッファーの違いによる不溶性/水溶性食物繊維の定量値への影響(ガゴメコンブ)
同じ試料の分析にも関わらず、MES-TRIS バッファー使用時には不溶性食物繊維量が多く、リン酸バッファー使用時には

水溶性食物繊維量が多く測定された。マコンブ、ナガコンブでも同様の結果が得られた。



お問い合わせ先
フジッコ株式会社
担当者:研究開発室 高谷 直己
責任者:研究開発室室長 戸田 登志也
TEL:078-303-5385 FAX:078-303-5397

ホームページアドレス:http://www.fujicco.co.jp




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