MHC統御カニクイザルを用いた共同研究の成果について

平成 30 年 6 月 7 日
各 位
株 式 会 社 イ ナ リ サ ー チ
代 表 取 締 役 社 長 中 川 賢 司
(コード番号:2176)
問い合わせ先: 執行役員 総務部長 野 竹 文 彦
電 話 番 号 0 2 6 5 ( 7 3 ) 6 6 4 7



MHC 統御カニクイザルを用いた共同研究の成果について


株式会社イナリサーチ(以下「当社」という)は、かねてより国立研究開発法人日本医療研究開発機
構(以下「AMED」という)の医療分野研究成果展開事業/研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の
もと、 当社がプロジェクトリーダーを務め、 学校法人東海大学(研究責任者、 「東海大学」
以下 という) 、
国立大学法人滋賀医科大学(以下「滋賀医科大学」という) 、学校法人慶應義塾大学(以下「慶應義塾
大学」という)と「MHC 統御カニクイザルの有用性評価と計画生産の検討」 (平成 25 年 12 月 1 日~平
成 29 年 11 月 30 日)を進めてまいりました。
この度、所定の研究期間満了を受け、AMED のホームページにて研究成果が公開されましたことから、
改めて当社としての研究成果発表を行います。

1.研究の成果と今後の見通し
(1)研究課題
課題1:MHC 統御カニクイザル(※注、以下「当該動物」という)の有用性評価と計画生産を検討
するために MHC 遺伝子群における効率的、経済的な DNA タイピング法を開発し、その精度
を検証する。 (東海大学、イナリサーチ担当)
課題2: MHC ホモ接合体における遺伝学ならびに免疫学の両面から MHC ホモ接合体の特徴を明確に
する。 (東海大学、滋賀医科大学担当)
課題3:子宮移植や、間質幹細胞移植実験(後に皮膚移植に課題変更)による当該動物の有用性を検証
する。 (慶應義塾大学、滋賀医科大学担当)
課題4:人工授精法の開発や繁殖生産コロニーの設定による当該動物の系統確立や安定供給体制を
確立する。 (滋賀医科大学、イナリサーチ担当)

(2)研究成果の概要
課題1:
・大量的に且つ並列的に塩基配列を決定する次世代シークエンサーを用いて一度に 50 頭の MHC アレル
を正確に判定する効率的かつ経済的な MHC タイピング技術を確立した。

課題2:
・MHC 遺伝子群以外の移植免疫応答に関わる KIR 遺伝子群の解析技術、また MHC 遺伝子群との同時
タイピング技術を開発した。
・MHC 遺伝子群以外に免疫応答に関連する遺伝子や血液型遺伝子における 1,193 個の遺伝子多型カタロ
グを作成した。
・in-vitro(試験管内など実験条件が人為的にコントロールされた環境下)にて拒絶反応の予測が可能
な検査法として、カニクイザル MLR 法(リンパ球混合試験)を確立した。併せて同検査に使用可能な
刺激細胞として長期生存増殖細胞株を作製した。

課題3:
・子宮移植実験にて、何れも免疫抑制剤の使用など一定の条件下で、MHC 型を一致させたペアにおいて
移植子宮の定着と子宮機能の回復を確認した。 一方、 型の不一致ペアにおいては拒絶反応が強く、
MHC
長期的に機能回復を確認するまでには至らなかった。
・皮膚移植実験においては、移植片とレシピエント間の MHC 型一致、不一致の場合とも最終的には移植
皮膚が拒絶されたが、MHC 型一致の場合は不一致の場合よりも移植片の状態が良好であり、より長期
間に渡り生着するなど顕著な差異が認められた。

課題4:
・研究開始当初の目標数には達しなかったが、繁殖コロニーにおいて一定数の継続的な MHC 統御カニ
クイザルの産児を得るに至った。
・より効率的な生産を目的とし、MHC 統御カニクイザルの分割クローン胚のメスザルへの移植による
妊娠を試みた結果、妊娠を確認した。
・人工授精法(AI 法)の検討を行い、妊娠及び出産を確認した。

(3)研究の評価(AMED による総合初見)
良好な産学連携体制のもと、効率的・経済的な新規 MHC タイピング法開発、MHC ホモ接合体における
遺伝学的ならびに免疫学的情報収集、 そして子宮移植実験等による MHC 統御サルの有用性検証等を通じ
て、要素技術確立と実験用モデル動物の供給体制の基盤を確立できたことは評価される。
一方で、他の実験動物を用いた評価との対比等を通じた MHC 統御サルの優位性の明確化や、事業戦略
および知財戦略を含めたマイルストーンの具体化が課題としてあげられ、今後、これまでの基礎検討を
踏まえ、移植医療分野などでの有用性検証や優位性強化に取り組み、収益を生む事業モデルの構築を期
待する。

(4)今後の展開
MHC 統御カニクイザルは、再生医療において iPS 細胞の他家移植を行う上での非臨床モデルとして、
また移植医療研究のモデルとして重要な意味を持ち、 人類の医療の発展の為に大きく寄与するものと期
待される。今後については以下の事業展開と更なる検証の実施を予定している。
・新規開発した MHC タイピング技術を用いたカニクイザルの MHC 解析受託サービスの開始
・MHC ホモ接合体から作製した iPS 細胞の研究利用展開
・MHC 統御動物の繁殖継続及び販売
・当該動物を用いた試験の受託
・移植研究全般に対する当該動物の紹介、有用性評価の推進
・当該動物の組織別免疫反応や薬剤プロトコル等に関する有用データの蓄積

2.業績への影響
今回の研究成果が当社の今期業績に与える影響は軽微であります。


用語の説明

(注)MHC 統御カニクイザル
MHC は、Major Histocompatibility Complex の略称名で、組織適合抗原性複合体を指し、組織移植の
際の拒絶反応の指標となっている。ヒトではヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA) で呼称
される。本 MHC 統御カニクイザルとは、当社と東海大学及び滋賀医科大学が共同で開発した遺伝子解析
技術に基づき、MHC 遺伝子群の遺伝子多型を揃えたカニクイザルを指す。iPS 研究に最適なヒトに最も
近い試験系として、 さらにその他の免疫応答が関わる医薬品の開発や新たな移植技術の確立用途として
その利用価値が評価されている。

参考:https://www.amed.go.jp/content/000033592.pdf
以 上

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