摂南大学との共同研究(生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究)に関するお知らせ

2021 年2月4日


各 位

会 社 名 ア ト ラ 株 式 会 社
代 表 者 名 代 表 取 締 役 社 長 CEO 久世 博之
(コード番号:6029 東証第一部)
問 合 せ 先 取 締 役 CFO 田中 雅樹
( TEL. 06-6533-7622)




摂南大学との共同研究(生体計測に基づいた水素吸引の

プラス効果に関する研究)に関するお知らせ


当社は、摂南大学と実施していた共同研究が完了しましたので、共同研究報告書(別紙)のとおり、お知
らせいたします。





1.生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究について
当社は、摂南大学と共同で、生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究を実施しました。
研究の結果、水素ガスの吸引により、疲労の回復及び脳の血流の改善が示唆されました。この結果、水素
ガスの吸引は、人間工学の観点から、生産性の向上や認知症の予防が期待されることがわかりました。
当社は、吸入用水素ガス発生装置Co.UP(SA-2600)を開発し、健康経営に取り組む企業や接骨院に販売し
ております。接骨院におきましては、施術と並行し、または、施術後にマッサージチェアに座りながら、吸
入していただくことで施術効果の上昇が期待できます。
以下のウェブサイトをご覧ください。
https://comfort-up.com/


2.今後の見通し
当社は、今後、患者の吸引用として Co.UP(SA-2600)を鍼灸接骨院に販売してまいります。また、健康
経営に取り組む企業に対しても販売してまいります。
本件は 2021 年 12 月期の計画に織り込みます。今後、開示すべき事項が発生しましたら、適切に公表い
たします。


以 上
2020 年度

共同研究報告書




生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究




2021 年 1 月 30 日

摂南大学 理工学部 機械工学科

川野 常夫
目 次


1.はじめに 1

2.研究の社会的・学問的意義 2

3.吸引用水素ガス発生装置 2

4.研究の安全性について 3

4-1 水素ガスの可燃性に対する安全性 3

4-2 酸素ガスの可燃性に対する安全性 3

4-3 水素ガス・酸素ガス吸引による人体への影響 4

4-4 新型コロナウイルス感染に対する対策 4

5.水素ガス吸引の効果の検証方法 4

5-1 疲労の測定 5

5-2 脳血流の測定 5

5-3 心拍変動(HRV)による交感神経系の活性度測定 5

5-4 被験者 5

5-5 生体計測のタイミング 6

6.実験結果と考察 7

6-1 実験の様子 7

6-2 フリッカー検査の結果と考察 7

6-3 前頭葉の脳血流の結果と考察 9

6-4 交感神経活動指標の結果と考察 11

7.おわりに 12



付録1 実験協力者への依頼文 13

付録2 実験協力者の同意書 15
1.はじめに

本研究では,
「水素ガスの吸引」を扱うが,水を電気分解して発生する水素と酸素を同時
に吸引することを水素ガス吸引と呼んでおり,すでに接骨院などでも患者に提供されてい
るほか,個人ユース用に吸引用の水素ガス発生装置が数種類市販されている。また,深海へ
のダイバーの潜水病(減圧症)の治療として,再圧チェンバーという空間で酸素を吸入した
際に大量に発生する活性酸素を除去するために,古くから水素ガスの吸引が行われてきた。
一方,わが国では水素分子を食品に用いることが 1995 年に認可され,2004 年には水素
水の販売が既に認可されている。また,水素を溶解させたお湯に入浴すると 10 分間で皮膚
を通過,全身に水素が行き届くことが示されている[文献 1]。
さらに,世界的には動物やヒトを対象として,水素の主に医学的効果を調査する 350 を
超す研究論文が発表されている[文献 2]。これらの研究は,日常的に体内に生成される活性
酸素種や酸化による有害な作用,すなわち酸化ストレスを水素が除去する特性に基づいて
いる。例えば,サッカー選手が水素水を飲むことで激しい運動中の血中乳酸レベルの上昇が
抑制され,同時に筋疲労も軽減されることが示された[文献 3]。また,マウスに水素水を摂
取させることで,酸化ストレスによる学習・記憶・空間認知の認知機能障害を抑制できるこ
とが示された[文献 4]。
これらの知見から,水素は筋疲労だけでなく,精神性疲労にも効果があるのではないかと
考えられる。また,水素により酸化ストレスが除去され認知機能が向上するならば脳血流が
増加するのではないかと考えられる。
本研究では,医療面ではなく人間工学の側面から,水素ガス吸引による疲労の回復,およ
び脳の血流改善の度合いを測定することにより,作業における生産性向上、健康経営などに
おける水素のプラス効果について検証を行う。疲労の測定には,LED の点滅を目視により
判別するフリッカー検査法を用いる。脳血流の測定には近赤外光により前額部のヘモグロ
ビン濃度を測定する NIRS を用いる。これらは,人間工学の分野で頻繁に用いられる測定法
であり,水素ガスの吸引を含めて,本研究は病気の診断,治療などを行う臨床研究ではない。


参考文献
[文献 1] 太田成男:水素医学の現状:基礎医学から臨床医学へ,ファルマシア,48-8,(2012)
pp.767-771.
[文献 2] MiZ株式会社まとめ:水素分子の各種疾患又はモデルに対する効果を報告した
文献,Ver.2.7, (2019)pp.1-100.
[文献 3] Aoki, K., Nakao, A., Adachi, T., Matsui, Y., & Miyakawa, S.:Pilot study: Effects of
drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite
athletes, Medical Gas Research, 2, 12, (2012) pp.1-6.
[文献 4] Nagata, K., Nakashima-Kamimura, N., Mikami, T., Ohsawa, I.,& Ohta, S.:




Consumption of Molecular Hydrogen Prevents the Stress-Induced Impairments in
Hippocampus-Dependent Learning Tasks during Chronic Physical Restraint in
Mice, Neuropsychopharmacology, 34, (2009) pp.501‒508.




2.研究の社会的・学問的意義

製造業や運輸業,医療保険業,保健衛生業,サービス業など仕事に人が介在する職業では,
従業員の「疲労」はパフォーマンスの低下や病欠などによる生産性の低下を誘発するほか,
ヒューマンエラーや事故を誘発し,生産をストップさせる原因ともなっている。疲労の回復
のためには通常,休憩時間が設けられているが,職種によっては休憩時間だけでは疲労が回
復せず,翌日まで疲労が残るケースもある。その他の疲労回復には,食事療法や適度な運動
が有効とされているが,それらだけでは十分とは言えない。昨今,「働き方改革」を実践し
ていく上で,従業員の健康管理から生産性向上へのアプローチをしていく「健康経営」とい
う考え方が増えてきている。
このような状況において,人間の「疲労」を効果的に回復する方法を導くことは社会的意
義が高いと考えられる。
また,前項の研究目的にも記載したように,水素ガスに関する多くの研究成果から,疲労
回復や血流改善,筋肉痛の緩和などに水素の効果が期待され,クリニックや接骨院,スポー
ツ界などにおいて水素ガス吸引が活用されてきている。近年,高山病の予防や眠気覚ましな
どに携帯酸素スプレーによる酸素吸引が行われるように,水素を吸う時代がやってきたと
も言える。しかし,水素が疲労回復や血流改善に効果があるといった科学的根拠を示す研究
はほとんどなく[文献 2],その科学的根拠を示すことができれば学問的にも意義が高いと言
える。



3.吸引用水素ガス発生装置

本研究では,水素ガスの吸引により疲労回復や脳血流の改善の効果があるか否かを明ら
かにするため,実験参加者が水素ガスを吸引するときとしないときの 2 条件において,疲
労および脳血流を測定し,効果の有無がわかるような実験設計を行う。
図1に本研究で用いた吸入用水素ガス発生装置 コアップ SA-1200 を示す。この装置は,
基本的には水を電気分解し,発生した水素と酸素を管(鼻腔カニューラ)を通して鼻腔へ送
るものである。この装置では毎分 520ml の水素ガスと毎分 260ml の酸素ガスを発生する。
この装置は医療機器ではなく,現在,同様の機器が HORIBA,インタークリスティーヌ,
アズワンなど 10 社以上から市販されている。




図1 吸入用水素ガス発生装置 コアップ SA-1200 (アトラ株式会社)




4.研究の安全性について

4-1 水素ガスの可燃性に対する安全性
水素は空気中の濃度が 4.1%~78%になると可燃性となるが,通常の実験室を密閉して,
水素ガス発生装置を約 3 日間連続に稼動しつづけなければ 4.1%に達しないとされており,
予定している 1 時間以内の稼動では室内に水素が滞留することはなく,安全である。また,
水素が噴出している配管口に火を近づけた場合でも,微量の水素が燃焼し,音は発生するが
火が放出されることはない。


4-2 酸素ガスの可燃性に対する安全性
酸素は空気中に約 21%の割合で存在する。酸素自体は燃えるものではなく,他の物質を
燃やす支燃性があり,物質にもよるが,発火源があればその物質は通常の燃焼を起こす。水
素ガス発生装置から出る水素は微量(8ml/秒)であるため,点火してもどこかに引火する
ことはない。酸素の量も微量であるため空気中の酸素濃度に大きな変化はない。仮に酸素が
一カ所に溜まり,空気中の酸素濃度が 70%以上の過剰濃度になると爆発の危険もあるが,
通常の換気を行っていれば,そのような状況になることはない。実験室では,窓を開け,換
気扇を作動させることとする。





4-3 水素ガス・酸素ガス吸引による人体への影響
水素は,相対的に酸素が少なくなって窒息を起こす場合を除き,人体には無害である。水
素ガス吸引や水素水の摂取に関する論文が 350 件以上発表されているが,悪影響に関する
報告はなく,先述のとおり潜水病の治療として水素ガスの吸引や,クリニックや接骨院など
における提供などから,人体への悪影響は極めて少ないと考えられる。
図1の水素ガス発生装置は,前述のとおり毎分 520ml の水素ガスと毎分 260ml の酸素ガ
スを発生する。人の平均呼吸量を毎分 6000ml として,呼気中の水素ガス濃度は約 8.7%,
酸素ガス濃度は空気中の分も含めて約 22.6%となる。酸素濃度の安全範囲は,18%~25%で
ある。この範囲より低いと酸欠状態となり,この範囲を超えると酸素中毒を起こすが,本研
究で扱う酸素ガス濃度は上記の 22.6%であるため問題はない。


4-4 新型コロナウイルス感染に対する対策
2020 年 1 月から世界規模の感染が始まった新型コロナウイルス感染に対して,本研究の
実験を行う際には,次の対策を講じた。
①約 200m2 の比較的広い部屋を実験室とし,窓を開けて換気を行うようにした。
②実験室には,十分な距離をとって被験者と実験者のみが滞在し,手指のアルコール消毒
をするとともに,常時,互いにマスクを着用した。
③被験者の肌に触れる実験器具のうち,鼻腔カニューラは被験者ごとに終了後に廃棄し
た。脳血流測定器 NIRS は,使用前後に清浄綿とアルコール綿で消毒を行った。



5.水素ガス吸引の効果の検証方法

水素ガスを吸引するためには,図1に示すように,鼻腔カニューラ(管)を鼻に装着する。
このようなことは普段しないため,鼻腔カニューラを装着するだけでプラセボ効果により,
疲労や血流の変化が生じることが考えられる。また,水素ガス発生装置に電源を入れると,
モーターの回転音が騒音として被験者に伝わる。そこで,水素ガスを吸引するしないに関わ
らず,被験者は鼻腔カニューラを装着したままとし,装置の電源も入れて回転音が発生した
まま,図1のバブリング容器にカニューラを接続する場合としない場合の切り替えを行う
こととする。この操作は実験者が行い,被験者からはこの操作が見えないようにする。すな
わち,水素ガス発生装置の回転音が聞こえる間はカニューラから水素ガスを吸引している
ものと認識することになる。しかし,カニューラを接続しない場合は,単に室内の空気を管
から吸引しているだけとなる。この条件を「ダミー吸引」と呼ぶ。このときバブリング容器
から発生する水素と酸素は,別の管を接続することによって,被験者から離れた場所へ放出
する。
なお,モーターの回転音を和らげる目的と,被験者から見えないようにする目的のため,
水素ガス発生装置の一部を吸音用ウレタンシートで覆った。




5-1 疲労の測定
疲労の測定には図2に示す AQ フリッカ
ーを用いる。簡易な疲労測定法として,古
くからフリッカー検査器が用いられてい
る。これは高速で点滅する LED 光を目で見
て,点滅がわかるか,わからないかによっ
て疲労度合いを調べる方法である。AQ フ
リッカーは点滅周波数が徐々に高くなる横
一列の LED を見て,点滅のわかる LED と
点滅のわからない LED の境界を見つける 図2 AQ フリッカーによる疲労度の検査

ことによって,点滅のわかる最高周波数を
求める装置である。測定結果は例えば,36Hz というように周波数の値で求められ,この値
のことをフリッカー値と呼ぶ。一般に疲労すると,フリッカー値は低下する。また,フリッ
カー値は,人によっても,年齢によっても異なるため,仕事によって疲労したかどうかは,
仕事前後の差の大きさ(相対値)で判定する。本研究では,水素ガスを吸引する前,最中,
および吸引後などに測定し,疲労度合いの変化を調べる。


5-2 脳血流の測定
脳血流の測定には図3に示す脳血流測定装置 NIRS(WOT-
100,日立製)を用いる。NIRS は前額部の頭皮下, 20mm の

ところの酸素化ヘモグロビン濃度と脱酸素化ヘモグロビン濃
度の時間変化を測定する装置である。それらの濃度の合計が
脳血流量の大きさを表す。本研究では,水素ガスを吸引する
前から吸引終了後までの脳血流を測定し,その変化を調べる。
図3 脳血流測定装置
NIRS(WOT-100)
5-3 心拍変動(HRV)による交感神経系の活性度測定
心拍変動の指標である R-R 間隔の低周波成分(LF)と高周波成分(HF)の比(LF/HF)
を測定する。図4に心拍変動測定器と交感神経・副交感神経活動指標を示す。心拍変動測定
器は図のように胸部 3 ヶ所に表面電極を貼り付け,心電図を測定するものである。心電図
には尖ったピーク(R と命名)が周期的に現れ,その R-R 間隔は通常,変動する。その変
動周波数の低周波成分(LF)と高周波成分(HF)の比 LF/HF は交感神経系活動の指標と
される。LF/HF が大きいと交感神経系の活動が活発であると判断される。


5-4 被験者
生体計測実験の被験者は,22~66 歳の健常な男女,延べ 26 名とした。実験協力の依頼と
実験開始にあたっては,全被験者に対して実験に関する十分な説明を行い,同意した後でも




図4 心拍変動測定器と交感神経・副交感神経活動指標




いつでも辞退できることを認識してもらったうえで,インフォームドコンセントを得た。
被験者に対する協力依頼の説明書,および被験者からの同意書の様式を付録に示す。
なお,本研究は 2020 年 3 月 3 日付で,摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会から
承認を得たあとで具体的に実施した(承認番号 2019-052)。


5-5 生体計測のタイミング
①フリッカー検査(2 回測定して平均値を求める)
以後,10 分おきに,測定する。
②安静状態(3 分間)
脳血流と心拍変動の測定開始。以後,実験終了まで連続に測定する。
③ダミー吸引条件(10~20 分間)
④水素吸引条件(20~30 分間)
被験者 26 名中 21 名については,ダミー吸引時と水素吸引時に分けて測定を行った。残
りの 5 名については,ダミー吸引は行わず,50 分間を水素吸引のみ行った。





6.実験結果と考察

6-1 実験の様子
図5に水素吸引時の生体計測実験の様子を示す。被験者は水素ガス発生装置から鼻腔カ
ニューラを通して,水素ガスを吸引する。水素ガス発生装置のモーター音の低減と装置が被
験者から見えないようにするため,吸音用ウレタンシートで装置の一部を覆っている。被験
者の頭部には脳血流を測定する NIRS のセンサーと心拍変動測定用の表面電極を取り付け
ている。被験者の前にはフリッカー検査器を配置している。




吸音用ウレタンシート
NIRS センサー部


心拍用電極


NIRS 測定用 PC

カニューラ
水素ガス発生装置


フリッカー検査器


フリッカー検査用 PC
心拍変動測定用 PC


図 5 水素吸引時の生体計測実験の様子



6-2 フリッカー検査の結果と考察
図 6 にダミー吸引時と水素吸引時別のフリッカー検査の結果を示す。白の棒グラフは各被
験者のダミー吸引時のフリッカー値を,オレンジの棒グラフは水素吸引時のフリッカー値
を示している。水素吸引時にフリッカー値が増加した被験者には,被験者の記号 a~z に○
を付けている。逆に水素吸引時に減少した被験者には逆三角形を付けている。それらが付い
ていない被験者はダミー吸引時と水素吸引時で変化がなかったことを示している。この結
果から,26 名中 17 名(65%)が水素吸引によりフリッカー値が増加した。すなわち,疲労
が回復したことがわかる。逆にフリッカー値が減少した被験者は 26 名中 5 名(19%)であ
った。実験では水素吸引時間を 20~30 分としたが,被験者によっては水素吸引時間が短か
く,実験全体で約 1 時間という拘束時間によって逆に疲労が現れた可能性が考えられる。




フリッカー検査

ダミー吸引時(プラセボ) 水素吸引時

フリッカー値 [Hz]

















a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z


被験者


図6 ダミー吸引時と水素吸引時のフリッカー検査の結果
(〇は増加,▽は減少)



なお,50 分間を通して水素吸引を行ったのは,被験者 v~z の 5 名で,うち 4 名が疲労が
回復した結果となった。
図7に被験者 26 名についてダミー吸引時と水素吸引時の平均値を比較した結果を示す。
フリッカー値は,被験者によって,年齢によっても異なるため,図では,各被験者の平均値
が 35 となるように基準化を行っている。
また,両条件において t 検定(両側検定)を行った結果,両条件の平均値には有意な差が
認められた(p=0.05)。すなわち,被験者個々にみれば,フリッカー値が増加する人,減少


フリッカー検査
36 p=0.05


35.5
n=26
フリッカー値 [Hz]








34.5




ダミー吸引時(プラセボ) 水素吸引時

図 7 各条件におけるフリッカー値の平均値の比較
(各被験者の平均値が 35 となるように基準化)



する人が存在するが,全体の平均値でみれば,水素吸引時のほうが有意にフリッカー値が高
くなる。すなわち水素吸引によって疲労が回復することを示唆している。


6-3 前頭葉の脳血流の結果と考察
図8に前頭葉の脳血流の時間変化の例を示す。横軸は時間,縦軸はヘモグロビン濃度を示
す。このグラフは,前頭葉の 10 ヶ所(センサーが 10ch)の総和を示している。ヘモグロビ
ン濃度は,脳血流の多い少ないを示すものである。また,脳血流は低い周波数で増減を繰り
返す特長がある。
グラフでは,ダミー吸引の開始時に少し増加しているが,これは水素ガス発生装置のモー
ター音によって刺激されたものと考えられる。その後,ほぼ一定を保ち,水素吸引後は全体
的にレベルが上昇していることがわかる。
図9には,50 分間を通して水素吸引を行った被験者の例を示す。この被験者の場合,水
素吸引後 20 分経過後から,脳血流が徐々に増加していることがわかる。一般に人体内部の
生化学反応はすぐに起こるものではなく,例えば,運動をしたあと 10~20 分後に発汗が現
れるように人体内部の反応は遅れが生じる。このことから水素吸引直後に効果が現れると
は考えにくく,
図9のように 20 分後から効果が現れるのは妥当な結果であると考えられる。
先の図8についても,水素吸引後,脳血流のレベルが上昇するのは,約 10 分後となって
いることからも,人体の反応が正確に表出しているものと考えられる。




前頭葉の脳血流10ch分の総和
10 ダミー H2吸引
ヘモグロビン濃度 [mM・mm]








平均レベル

-5

時間 [分]


図 8 前頭葉脳血流の時間変化の例(被験者 o)





前頭葉の脳血流10ch分の総和

ヘモグロビン濃度 [mM・mm]





H2吸引









-5

時間 [分]

図 9 前頭葉脳血流の時間変化の例(被験者 x)
(脳血流測定開始 3 分後から水素吸引)




前頭葉の脳血流
p=0.036

ヘモグロビン濃度 [mM・mm]





n=26









ダミー吸引時(プラセボ) 水素吸引時


図 10 各条件における前頭葉脳血流の平均値の比較
(各被験者の平均値が 2[mM・mm]となるように基準化)





図 10 に被験者 26 名についてダミー吸引時と水素吸引時の平均値(グラフの平均レベル)
を比較した結果を示す。脳血流の大きさは被験者によって異なるため,図では,各被験者の
平均値が 2[mM・mm]となるように基準化を行っている。また,両条件において t 検定(両
側検定)を行った結果,両条件の平均値には有意な差が認められた(p=0.036)。すなわち,
水素吸引時のほうが有意に脳血流が多くなることを示している。このことは水素吸引の効
果を示唆している。


6-4 交感神経活動指標の結果と考察
図 11 に交感神経活動指標について,被験者 26 名についてダミー吸引時と水素吸引時の
平均値を比較した結果を示す。自律神経の活動は被験者によって異なるため,図では被験者
の平均値が 2(LF/HF)となるように基準化を行っている。両条件において t 検定(両側検
定)を行った結果,両条件の平均値には有意な差は認められなかった。図4に示したように
交感神経活動指標は,精神的ストレスを受けているときに増大する。したがってその指標が
減少するとリラックス状態に転換することが考えられるが,水素吸引によって,そのような
変化は認められなかった。




交感神経活動指標
4 p=0.27, (n.s.)



n=26
交感神経活動指標













ダミー吸引時(プラセボ) 水素吸引時

図 11 交感神経活動指標の比較
(各被検者の平均値が 2 となるように基準化)





7.おわりに

本研究では,医療面ではなく人間工学の側面から,水素ガス吸引による疲労の回復,およ
び脳の血流改善の度合いを測定することにより,水素ガス吸引の効果について検討を行っ
た。その結果をまとめると以下のようになる。


(1) 鼻腔カニューラを装着する,あるいは水素ガス発生装置が作動するだけでプラセボ効果
により,疲労や血流の変化が生じることが考えられるため,被験者に知らせることなく,
ダミー吸引と水素吸引に分けて効果を確かめた。それにより水素の効果がより明確にな
った。


(2) フリッカー検査の結果,水素吸引時のほうが有意にフリッカー値が高くなる,すなわち
水素吸引によって疲労が回復することが示唆された。


(3) 水素吸引時のほうが有意に脳血流が多くなることが示されたことから,水素吸引により
脳血流が増加する効果があることが示唆された。


(4)水素吸引後,効果がすぐに現れるのではなく,効果が現れるまで 10~20 分というタイ
ムラグがある。


(5)水素吸引は,交感神経活動には影響を与えないことが示唆された。


以上,本研究の条件における実験結果からは,水素吸引は,疲労回復や脳血流の増加に一
定の効果があることが示唆された。今回の実験では,水素吸引の時間が 1 時間以内であっ
たが,吸引時間の影響や繰り返し吸引の再現性などについては明らかになっていない。また,
水素の効果をより明確にするためには,疲労回復や脳血流の増加の要因として,休憩や酸素
など水素以外のあらゆる要因を排除する実験デザインが必要となる。今後,被験者数をさら
に増やし,長期にわたる実験継続が望まれる。





付録1 実験協力者への依頼文


年 月 日
試験・調査を受けられる方へ


「生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究」にかかる
試験・調査への協力依頼について


本書は、「生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究」にかかる試験・調査
内容を説明したものです。下記の当該試験・調査研究の趣旨をよくご理解いただいた上でご
協力いただける場合には同意書にご署名ください。





1. 試験・調査研究の背景と目的・内容
製造業や運輸業,医療保険業,保健衛生業,サービス業など仕事に人が介在する職業では,
従業員の「疲労」はパフォーマンスの低下や病欠などによる生産性の低下を誘発するほか,
ヒューマンエラーや事故を誘発し,生産をストップさせる原因ともなっています。疲労の回
復のためには通常,休憩時間が設けられていますが,職種によっては休憩時間だけでは疲労
が回復せず,翌日まで疲労が残るケースもあります。その他の疲労回復には,食事療法や適
度な運動が有効とされていますが,それらだけでは十分とは言えません。昨今,
「働き方改
革」を実践していく上で,従業員の健康管理から生産性向上へのアプローチをしていく「健
康経営」という考え方が増えてきています。
このような状況において,人間の「疲労」を効果的に回復する方法を導くことは社会的意
義が高いと考えられます。
本研究では,水素ガスの吸引が疲労回復や脳血流促進に効果があるかどうかを調べます。
「水素ガスの吸引」と言っても,水を電気分解して発生する水素と酸素を同時に吸引するこ
とを水素ガス吸引と呼んでおり,すでに接骨院などでも患者に提供されているほか,個人ユ
ース用に吸引用の水素ガス発生装置が数種類市販されています。
また,水素ガス吸引や水素水の摂取に関する研究論文が 350 以上発表されており,疲労
回復や血流改善,筋肉痛の緩和などに水素の効果が期待され,クリニックや接骨院,スポー
ツ界などにおいて水素ガス吸引が活用されてきています。近年,高山病の予防や眠気覚まし
などに携帯酸素スプレーによる酸素吸引が行われるように,水素を吸う時代がやってきた
とも言えます。しかし,水素が疲労回復や血流改善に効果があるといった科学的根拠を示す
研究はほとんどなく,その科学的根拠を示すことができれば学問的にも意義が高いと言え
ます。




本実験では,水素ガスの吸引時に疲労の測定と脳血流の測定を行います。いずれも人体へ
の影響はほとんどありません。測定時間は約 1 時間です。
実験中の風景をデジカメやビデオカメラで撮影させていただくことがあります。
本試験・調査研究は2020年3月3日付で、摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会
にて承認済みであります。


2. 試験・調査への参加
説明を担当者から聞いた上で、参加するか否かをあなたの自由な意志で決めてください。
たとえ参加されなくても今後、不利益になることは一切ありません。
なお,呼吸器系に疾患のある人は参加できませんので,お申し出ください。


3. 試験・調査の辞退
試験・調査に参加されることを同意あるいは調査が開始された後でも、申し出たときはい
つでも自由に辞退することができます。
実験後の辞退の場合、取得しました個人情報は撤回します。


4. 考えられる事態とその対応の仕方
測定中は椅子に腰かけて,安静にしてください。眠くなれば眠っても結構です。ただし,
疲労の測定を定期的に行います。その際には,実験者が声をかけますので,目を覚ますよう
にお願いします。
測定は人体への影響はほとんどありませんが,もし気分や具合が悪くなった場合,継続の
意志がなくなった場合などは,途中退出できますので遠慮なく実験者に声をかけてくださ
い。
その他,詳しくは、担当者におたずねください。


5.費用および謝金について
測定実験に費用はかかりません。実験所要時間に応じた謝礼(1 時間につき 2,000 円)を
銀行振り込みにてお支払いします。


6.プライバシーの保護
試験・調査により得られた試料及びデータは、「生体計測に基づいた水素吸引のプラス効
果に関する研究」にかかる研究のために利用させていただきます。本研究内容は、学術雑誌
などに公表されることがございますが、ご協力いただきました方の氏名や病気名を含む個
人的な秘密、個人を特定し得る情報の公表は一切ありません。また、当該研究以外の目的に
使用されることもございません。
以 上




付録2 実験協力者の同意書


同意書


摂南大学
学長 殿


私は、
「生体計測に基づいた水素吸引のプラス効果に関する研究」の実施に際し、以下の
項目につき十分説明を受け、その趣旨を理解いたしました。また、いつでも同意を撤回でき
ること、今後いかなる不利益を受けることはないこと、プライバシーの保護について配慮さ
れていることを確認しましたので、自らの自由意志により本試験・調査研究に協力すること
に同意します。


□ 試験・調査研究の背景と目的・内容
□ 試験・調査研究への協力の任意性と撤回の自由
□ 考えられる事態とその対応の仕方
□ 費用および謝金に関する事項
□ プライバシーの保護


同意者(本人)

同意日 西暦 年 月 日


氏名(署名)




説明者:
説明日 西暦 年 月 日 職名 特任教授


氏名(署名)




※本紙は、本紙を含め 3 枚作成(コピー可)後、研究者・被験者・委員会(研究支援事務グ
ループ)の三者が保管すること。





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