Nature誌への当社PAI-1阻害薬に関連する記事掲載のお知らせ

2023 年9月7日
各 位


会 社 名 株式会社レナサイエンス
代表者名 代表取締役社長 内藤 幸嗣
(コード:4889 東証グロース)
問合せ先 管理部
(TEL.03-6262-0873)


Nature 誌への当社 PAI-1 阻害薬に関連する記事掲載のお知らせ


当社は東北大学をはじめとする複数の大学・医療機関と共同で、がん及び老化関連疾患領
域でプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)阻害薬 RS5614 を開発して
います。国際的な総合科学雑誌 Nature9月7日号(冊子及びオンライン版)に、RS5614 の
がん及び老化関連疾患領域に関連する内容が、記事広告「A KIDNEY DISEASE DRUG HELPS
FIGHT CANCER AND AGEING」として掲載(特集企画 Nature Index Cancer の一部)されま
したのでお知らせいたします。


記事広告 URL:https://www.nature.com/articles/d42473-023-00207-4


以下は Nature 誌 2023 年9月7日号に掲載された記事広告を、当社の文責にて日本語訳
したものです。

「腎臓病治療薬ががんと老化に効く」
当初腎臓の治療薬として開発された薬剤ががんと老化に有効であることが判明


日本の腎臓内科医である宮田敏男教授は、20 年前に腎臓病に対する治療薬が少ないため
に患者のために自分たちで何かしなければならないと考えました。
「腎臓の炎症や線維化は
生命を脅かすものですが、当時腎臓病治療薬はほとんどありませんでした。
」と宮田教授は
言います。
血栓、炎症、線維化に関与するタンパクであるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビ
ター1(PAI-1) 製薬業界では 30 年以上もの間、
は、 創薬の標的候補と考えられていました。
血栓、炎症、線維化などのメカニズムは、腎臓、肺、心臓血管、肝臓など多くの疾患の発症
や進展と関係しています。炎症と線維症により疾患が重症化するので、この病態を改善する
ことがゲーム・チェンジャーとして画期的な治療法に繋がると期待されます。
2003年、東北大学大学院医学系研究科の医師・研究者である宮田教授は、PAI-1を阻害す
る低分子医薬品(PAI-1阻害薬)を見つけることに着手しました。当時はPAI-1を阻害する低
分子化合物は数あまり報告されておらず、PAI-1の生物学的な役割についての研究も始まっ
たばかりでした。
宮田らは、ヒトPAI-1の結晶構造に基づきコンピューター創薬でのバーチャルスクリーニ
ングを実施し、PAI-1阻害薬の探索を開始しました。ドッキングアルゴリズムを使ってPAI-1
分子との結合を予測し、約225万化合物の結合をシミュレーションした後、最初のヒット化
合物を発見しました。これがヒット化合物であるTM5007です(1)

齧歯類の血栓動物モデルを使った非臨床試験で、TM5007が血栓を有意に減少させるとい
う有望な結果が得られました。しかし、残
念ながらその効果は臨床的に有用な治療
薬とするには低すぎるものでした。
そこで、宮田らのチームは、この有効性
を改善するために化合物の改良を続けま
したが、その道のりは長いものでした。15
年の歳月をかけ1,400種類以上の化合物を
新規合成し、ついに最初のヒット化合物よ
り 3,000 倍 高 い 有 効 性 を 有 す る 化 合 物
TM5614(注:当社開発コードRS5614と同
じ化合物)にたどり着きました。そして、
彼らはこの化合物の臨床試験をさらに進
めました。


ヒト PAI-1 の結晶構造

幹細胞との相互作用
TM5614の開発を進める過程で、宮田らのチームはPAI-1について多くの新たな知見を見
出しました。例えば、PAI-1は造血幹細胞(血液細胞に成長する未熟な細胞)が骨髄環境か
ら遊離する過程に重要な役割を担うフリンと呼ばれるタンパク質を阻害することがわかり
ました。TM5614がPAI-1の標的部位に結合すると、フリンが活性化され、造血幹細胞が骨髄
から遊離し、血液細胞に分化増殖します。
宮田らのチームは、現在東北大学病院長であり血液専門医である張替秀郎教授と共同研
究を開始し、TM5614が慢性骨髄性白血病(CML)の併用薬として有用である可能性を検討
しました。
「CMLは造血幹細胞に遺伝子異常が発生すると発症する血液がんの一種です。 と

張替教授は言います。PAI-1とがんに関するそれまでの研究では、血栓や線溶におけるPAI-1
の働きに焦点が当てられていましたが、造血幹細胞におけるPAI-1の活性を報告したものは
ありませんでした(2)

CML患者は通常、造血幹細胞から分化した成熟CML細胞に作用するチロシンキナーゼ阻
害薬(TKI)で治療されます。TKIはCML患者の生存率を向上させますが、疾患の根本原因に
対処することはできません。TKIは骨髄環境に存在するCML幹細胞に作用できないため、治
療を中止するとしばしばがんが再発してしまいます。一方、TKIの長期使用は高額の医療費
を必要とし、また、致命的な副作用を伴う可能性もあります。
これを克服するため、宮田らの研究チームは、TKIとPAI-1阻害薬を組み合わせてCMLを治
療する戦略を考案しました。PAI-1阻害薬TM5614を用いて、CML幹細胞を骨髄環境からお
びき出す戦略です。いったんCML幹細胞が骨髄環境から遊離されれば、TKIがその幹細胞を
攻撃することができるようになります。宮田らの研究チームは、この併用療法をCMLマウス
モデルで実験し、骨髄に残存するCML細胞の数が大幅に減少して、マウスの生存率が向上す
ることを確認しました。
この結果に基づき、研究チームは前期及び後期の第II相臨床試験を実施しました(後期第
Ⅱ相試験ではTKIの連日投与を受けている33人の患者が対象)
(3) TKIの連日投与に加えて

TM5614を1年間投与された患者は、深い分子遺伝的寛解(がんの原因となる遺伝子が検出
されない状態)を高い効率で達成することができました。これは、CMLのTKI治療において
望ましい結果です。


免疫チェックポイント阻害薬
PAI-1の発現レベルが高いほど、固形がん患者の生存率が低いことが、他の研究グループ
によって報告されました。しかし、そのメカニズムは解明されていませんでした。宮田らの
研究チームは、PAI-1ががん細胞の表面に免疫チェックポイント分子の発現を誘導し、がん
に対する免疫反応を抑制することを発見しました。
プログラム細胞死1(PD-1)や、PD-1に結合するリガンドであるPD-L1、などの免疫チ
ェックポイント分子は、がん免疫療法のターゲットとしてよく知られています。これらの免
疫チェックポイント分子に対する阻害薬はがん細胞には直接作用しませんが、免疫T細胞の
活性化状態を維持し、がん細胞を攻撃できるようにします。これら阻害薬の有用性が期待さ
れていますが、抗PD1/PD-L1の治療効果も限定的です。
「抗体医薬は高価であり、またそれ
による免疫関連の副作用が深刻な問題です。抗PD-1/PD-L1の奏効率を高め、副作用が少な
く、より安価な併用薬が求められています。
」と宮田教授は言います。
宮田らの研究チームは、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、大腸がんのマウスモデルにおいて、
TM5614が腫瘍増殖を抑制し、抗PD-1抗体の抗腫瘍反応を増強することを示しました。そし
て、悪性黒色腫を対象とした第II相臨床試験では、ニボルマブ(抗PD-1抗体)に不応答性で
あった患者29人のうち7人が、TM5614との8週間の併用療法後にニボルマブに反応するよう
になったのです(4)。
宮田らの研究チームは現在、TM5614の他のがんにおける免疫チェックポイント阻害作用
をさらに確認するため、非小細胞肺がんと皮膚血管肉腫を対象とした第II相臨床試験を予定
しています。


驚きの発見
TM5614の創薬は、アカデミアにおけるトランスレーショナル・メディシン(橋渡し研究)
がどのようにあるべきかを体現しています。張替教授は言います、「以前は、医学部は主に
生物学的研究を行っていました。しかし、時代は変わりました。製薬会社は私たちが必要と
するすべての医薬品を開発できるわけではありません。だから、自分たちでやらなければな
らないのです。

宮田らのチームは、さらに研究を発展させるために、国内外の数々の研究機関/医療機関
と共同研究を行いました。2017年には米国イリノイ州にあるノースウェスタン大学の科学
者との共同研究により、PAI-1の驚くべき役割がまたひとつ発見されました。米国インディ
アナ州のアーミッシュ移民を調査した結果、PAI-1遺伝子を持たない人々は、遺伝子を持つ
人々よりも平均で10年長生きすることがわかったのです(5)

「この予想外の発見は、世界の様々な研究者らとオープンリソース(医薬品)を共有する
ことによって初めて可能になった。」と宮田教授はいいます。宮田らの研究チームは現在、
PAI-1阻害薬を老化に関連する疾患の治療薬として適用する可能性を探っています。
「医薬品開発は非常に難しいものですが、同時に非常に重要なものです。将来、若い研究
者や医師・科学者が私たちに続いてくれることを期待しています。 と張替教授は語ります。



(引用文献)
1. Izuhara, Y. et al. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 28, 672–677 (2008).
2. Yahata, T. et al. Blood 130, 2283–2294 (2017).
3. Takahashi, N. et al. Cancer Med. 12, 4250–4258 (2023).
4. Fujimura, T. et al. Med. Case Rep. Stud. Protoc. 2, e0197 (2021).
5. Khan, S. S. et al. Sci. Adv. 3, eaao1617 (2017).
以上

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